第7話 逃げろって言われても、どこに!?
「——やっと、見つけた」
青白い女の声が、
耳のすぐ横で聞こえた。
たろーの背筋が跳ねる。
次の瞬間、
体が勝手に動いていた。
「うわぁぁぁぁ!!」
スクランブル交差点へ飛び出す。
信号が変わったばかりで、
人の波が一気に流れ込んできた。
肩がぶつかる。
「すみません!」
サラリーマンが振り返る。
女子高生が嫌そうな顔をする。
でも止まれない。
後ろを見る。
白い女は、
まだ交差点の向こう側にいた。
歩いているだけ。
ゆっくり。
なのに。
人を避けるたび、
なぜか距離が縮まっている。
「なんでだよ……!」
喉がカラカラになる。
⸻
「伊藤!」
横から腕を掴まれた。
九条だった。
息を切らしている。
「止まれ!」
「無理!!」
たろーは九条の手を振り払う。
「見えてないのか!?
来てるって!」
九条が振り返る。
だが、
その目には何も映っていない。
「……どこだ」
その瞬間。
バチッ。
頭上の大型モニターが一瞬消えた。
通行人が「え?」と空を見上げる。
スマホ画面が乱れる。
雑音。
ノイズ。
りんが人混みの後ろで眉をしかめた。
「結界が歪んでる」
まおも笑っていない。
「これ、かなり近いよ」
⸻
たろーはセンター街へ飛び込む。
呼吸が苦しい。
後ろから、
コツ、コツ、と靴音だけが聞こえる。
速くない。
走ってもいない。
なのに近い。
「っ……!」
角を曲がった瞬間、
床の小さな段差に足を引っかけた。
視界が傾く。
ドシャッ!!
派手に転んだ。
膝に熱い痛みが走る。
「いっ……!」
立たなきゃ。
そう思うのに、
足がうまく動かない。
ゆっくり顔を上げる。
いた。
路地の入口。
白い服、青白い手。
長い髪。
顔のある場所だけ、
ぽっかり暗い。
女が、
静かにこちらを見ている。
「ひっ……」
女の腕が伸びる。
指先が、
たろーの顔へ近づく。
その瞬間。
バン!!
大量のお札が横から飛んできた。
女の体に貼り付き、
青白い火花を散らす。
空気が爆ぜた。
女の姿がゆらりと揺れる。
「今だ!!」
低い声が響いた。
たろーが振り返る。
榊先生だった。
黒コートを翻しながら、
路地へ飛び込んでくる。
「先生!?」
「何をしている伊藤!!」
「逃げてました!!」
「見れば分かる!!」
榊先生が片手を振る。
空中に青白い線が走った。
ガン!!
見えない壁に、
何かが叩きつけられた音。
通行人は誰も気づかない。
路地の前を、
普通に人が歩いていく。
なのにここだけ、
空気が重かった。
冷房みたいな冷たさが、
肌にまとわりつく。
⸻
「九条!」
榊先生が叫ぶ。
「一般人を入れるな!」
「了解!」
九条がポケットから札を投げる。
「すみませーん!
この先、撮影入りまーす!」
通行人たちが、
「マジ?」「なんの撮影?」と言いながら離れていく。
りんはスマホを操作していた。
周囲の監視カメラ映像が、
次々ブラックアウトしていく。
まおは青白い女を見つめたまま呟く。
「燃やす?」
「燃やすな」
榊先生の返事が速い。
⸻
青白い女が、
ゆっくり榊先生へ顔を向けた。
その瞬間。
先生の眉がわずかに動く。
「……まずいな」
「え?」
たろーが顔を上げる。
榊先生は、
女から目を離さないまま言った。
「“見つかった”」
意味が分からない。
でも。
先生の声が、
授業中よりずっと低かった。
榊先生が振り返る。
「伊藤」
「は、はい」
「今日から一人で帰るな」
「え」




