第5話:放課後、渋谷に怪異が出るらしい
授業終了のチャイムが鳴った瞬間。
九条アキラが立ち上がった。
「伊藤」
「はい」
「放課後ってやつしよう」
⸻
数分後。
たろーたちは駅へ向かっていた。
「なんで俺まで……」
「校則で決まってる」
九条が当然みたいに言う。
「魔法学生だけで一般人の街には行ってはいけない。
一般人同伴に限る」
りんは当然のように、
ゲーミングチェアで移動している。
浮いてる。
めちゃくちゃ目立つ。
「降りろ!」
「疲れる」
「その椅子の方が目立つわ!」
⸻
まおが巨大ビジョンを見上げる。
「ここ、
花火したら怒られる?」
「怒られるどころじゃない」
⸻
電車が渋谷へ近づく。
そのときだった。
車内モニターが一瞬だけノイズを走らせる。
ビリッ。
画面が乱れた。
たろーは眉をひそめる。
「……?」
だが周囲は普通だった。
誰も気づいていない。
渋谷。
人。
広告。
騒音。
スクランブル交差点。
普通の東京。
……のはずだった。
「うわ、マジで人多っ」
たろーが見回す。
すると九条が嬉しそうに言った。
「これが“放課後”かぁ……」
「お前ほんと何育ちなんだよ」
⸻
りんがスマホを見る。
「今は怪異注意レベル3」
「天気予報みたいに言うな」
たろーが画面を覗く。
そこには、
【渋谷駅周辺 軽度怪異発生率上昇】
と表示されていた。
「なにこれ」
「魔術師用アプリ」
「そんなのあるの!?」
⸻
まおが突然立ち止まる。
「いる」
空気が変わった。
九条の表情も消える。
周囲の雑踏だけが、
妙に遠く聞こえた。
「……え?」
たろーは辺りを見回す。
でも何もいない。
普通の渋谷。
普通の人混み。
信号待ち。
スマホ。
笑い声。
なのに。
ぞわっ。
急に背筋が寒くなる。
「……なんだこれ」
たろーだけ、
妙な圧迫感を感じていた。
そのとき。
カンカンカン。
信号が変わる。
人の流れが動き出す。
そして。
人混みの向こう。
ひとりの女が立っていた。
白い服。
長い髪。
顔がない。
「——ッ」
たろーの息が止まる。
女が、
ゆっくりこちらを見る。
いや。
顔はないのに、
確かに“目が合った”。
たろーの足が凍りつく。
「伊藤?」
九条の声が遠い。
周囲は誰も気づいていない。
女だけが、
人混みの中で止まっている。
そして。
口のない顔で、
笑った気がした。




