第3話 一反もめん、飛ぶ
「——というわけで」
先生が出席簿を閉じる。
「次、
飛行実習ねー」
軽かった。
普通、
そんなノリで空飛ばんだろ。
⸻
実習場は、
校舎裏とは思えない広さだった。
空中には、
巨大なリングが何個も浮かんでいる。
地面には、
びっしり魔法陣。
隅には。
なぜか、
救急車が待機していた。
「帰りたい」
その横を、
担架が運ばれていく。
「今年の一年、
荒いねぇ」
怖い。
⸻
先生がパンッと手を叩く。
「じゃあまず、
飛行具を召喚してください」
生徒たちが、
一斉に魔法陣を展開する。
箒。
ボード。
剣。
ドローン。
なんかよく分からない球体。
世界観がバラバラすぎる。
「おぉ〜!」
「今年当たり多くね?」
「竜召喚いるぞ!」
校庭のあちこちで、
歓声が上がる。
その横。
りんが、
静かに前へ出た。
スマホ片手。
やる気なさそう。
「りんは何?」
「ん」
りんが、
片手をかざす。
魔法陣、
展開。
ボフン。
現れたのは——
やはり黒と赤の、
ゲーミングチェアだった。
LEDまで光ってる。
りんは、自慢げに背もたれを倒してみせた。
「長時間でも疲れない」
「配信者みたいな理由!」
ウィィィン……
静かに、
チェアが浮かび上がった。
先生、
感心したように頷く。
「安定性が高いですね」
「評価ポイントそこ!?」
⸻
その隣。
九条アキラが、
片手を上げた。
銀色のチェーンピアスが、
シャラ……と鳴る。
魔法陣、
展開。
現れたのは——
巨大な白い狼だった。
「うぉぉぉ!?」
デカい。
めちゃくちゃデカい。
しかも、
目が赤い。
女子たち、
ザワつく。
「九条くん!カッコいい〜!」
「やば」
九条、
慣れた顔で狼へ乗る。
「まぁ、
こんくらい普通」
めちゃくちゃドヤ顔だった。
その時。
狼、
九条を無視して歩き出す。
「おい待て」
そのまま購買の方へ行こうとする。
「焼きそばパンの時間じゃねぇ!!」
先生、
メモを取る。
「使い魔との信頼関係に難あり」
「書くな!!」
⸻
「では次、
伊藤くん」
「え、
俺?」
全員、
見る。
嫌だった。
先生が言う。
「イメージしてください。
“自分に最も馴染む飛行具”を」
急に言われても分からない。
飛ぶもの。
飛ぶもの……
たろーは、
目を閉じる。
その時。
昔テレビで見た、
妖怪の映像が頭をよぎった。
「あー……
なんだっけ……
布の……」
ボフン!!
現れたのは——
一反もめんだった。
ヒラヒラしてる。
「なんで!?」
実習場、
静まり返る。
九条、
吹き出す。
「ぶはっ!!」
肩震えてる。
「ダッサ!!」
周囲も、
耐えきれず笑い始めた。
「古っ!」
「昭和じゃん!」
たろー、
顔が熱い。
「いや俺も分かんねぇよ!!」
先生は、
真面目にメモを取っていた。
「布系召喚……
かなり珍しいですね」
「分類すんな!」
後ろの方から、
女子の声。
オレンジっぽい髪。
制服もちょっと着崩してる。
「え、乗ってみたい!」
「怖いからやめろ!」
その直後だった。
一反もめんが、
シュルッとたろーの首へ巻き付く。
「うわっ」
そのまま——
ビュンッ!!
「イヤアアアアア!!」
たろーの体が、
空へ射出された。
「飛んだーー!!」
「雑!!」
校庭上空。
絶叫しながら、
振り回されるたろー。
リングをくぐる。
校舎スレスレを飛ぶ。
先生、メモをとる。
「野生ですね。」
その下では。
りんが、
スマホを構えていた。
「動画回しとこ」
「助けろよォォォ!!」




