第11話:奈落行きは地獄の通勤ラッシュ
奈落行き魔導線は、暗闇の地下を爆走していた。
窓の外には、たまに燃え盛るマグマや謎の光る目が見えるが、車内は異様なほど静かだった。
『次は〜、血の池温泉前〜、血の池温泉前〜』
日本の駅員と完全に同じ、あの間延びしたアナウンスが響く。
プシュー。
ステンレスのドアが開いた。
ホームに並んでいたのは——大量の鬼だった。
「うわっ」
たろーが思わず声を漏らす。
身長2メートル超え。
頭には鋭い角。
はち切れんばかりの筋肉。
手にはトゲトゲの金棒。
なのに。
全員、無表情だった。
目が死んでいる。めちゃくちゃ疲れている。
「完全に通勤電車の顔だ……」
たろーが呆然と呟く。
鬼たちは無言で、ズンズンと車内に乗り込んでくる。
奥へ詰める動きが、やけにスムーズだ。
ギュウウウウ……。
あっという間に車内は満員になった。
「狭っ!!」
たろーは屈強な鬼たちの筋肉に挟まれ、完全に押し潰されていた。
しかも隣の鬼のおっさん、めちゃくちゃ酒臭い。
(血の池温泉で飲んできたなこいつ……!)
ふと見ると、鬼のおっさんが頭上に手を伸ばした。
揺れる車体を支えるため、吊り革を掴む動き。
……じゃない。
天井からぶら下がっていたのは、プラスチックの輪っかではなく、
『巨大な蛇の抜け殻』だった。
鬼たちは、その蛇の抜け殻を、慣れた手つきでギュッと握りしめている。
「吊り蛇皮だこれ!!」
たろーのツッコミが車内に響くが、鬼たちは誰一人気にしない。スマホでニュースを見ている。
ふと顔を上げると、車内広告が目に入った。
【深夜限定!! 地獄サウナOPEN(※熱湯ロウリュ完備)】
【“人間界勤務”の鬼スタッフ募集中! アットホームな職場です】
「生々しいな!!」
魔界にもブラック企業があるらしい。
まおが、鬼の背中に押し潰されながらケラケラ笑っている。
「なんか……日本って感じ」
九条も、鬼の金棒が顔に当たりそうになりながら目を輝かせていた。
「すげぇ! 一般社会への理解が深まるな!!」
「お前らは魔法社会側だろ!!」
その瞬間。
魔導線が、カーブに差し掛かった。
ゴァァァァン!!
凄まじい急ブレーキと横揺れ。
全員の体が、一斉に同じ方向へ傾く。
しかし、鬼たちは慣れた動きで「吊り蛇皮」を掴み、体幹で踏ん張っている。一切の動揺がない。
ギュウウウウッ……!
たろーは鬼たちの筋肉の波に揉まれ、息が止まりそうになった。
「あ、この感じ……」
たろーは薄れゆく意識の中で悟る。
「朝の中央線だ……」
優先席でゲーミングチェアごと押し潰されているりんが、無表情のままボソッと呟いた。
「地獄だった」




