第10話 UFO騒動から奈落行き方面
翌朝。
第三寮のロビー。
朝の情報番組が、深刻なトーンでニュースを伝えていた。
『昨晩深夜、都内上空を飛行する謎の物体が多数のカメラに捉えられました!』
『光を噴射しながら超高速で移動しており、専門家によりますと、ミサイル、あるいはUFOの可能性も——』
画面に映し出されたのは、不鮮明なスマホのズーム映像。
しかし、どう見ても「花火を吹き出しながら爆走する巨大ショッピングカート」だった。
「完全に俺たちじゃねーか!!」
たろーがテレビを指差して叫ぶ。
隣で九条が目を輝かせていた。
「すげぇ! 一般人のテレビに出たぞ!」
「喜ぶな! 魔術の隠蔽はどうしたんだよ!」
ゲーミングチェアの上で、りんがスマホをスワイプする。
「X(旧Twitter)でトレンド1位。『#空飛ぶカート』『#暴走UFO』」
「終わった。日本の魔術の歴史、俺たちのせいで終わった」
まおがパンをかじりながらモニターを見る。
「私のロケット噴射、めっちゃ綺麗に映ってる」
「自慢すんな!」
その時。
ピンポンパンポーン。
寮内に冷たい放送が響いた。
『一年、伊藤、九条、りん、まお。至急、校長室へ来なさい』
⸻
校長室の前。
重厚な木製の扉。見るからにヤバい威圧感がある。
たろーは頭を抱えていた。
「退学だ……絶対退学だ……」
「一般の高校って、退学になる時『親』呼ばれるんだろ? なんかエモいな」
「エモくない! 俺はアメリカ留学設定にされてるんだぞ!」
意を決して、扉を開ける。
部屋の奥。
大きなデスクの向こうに、まほろば高校の校長が座っていた。
長い白髭。重厚なローブ。
まさに「大魔術師」といった威厳のある佇まいだ。
校長が、ゆっくりと口を開く。
「……君たちか。昨晩、空飛ぶカートで花火を打ち上げたのは」
声が低い。
空気が重い。
たろーはギュッと目をつぶった。
(怒られる……! 消される……!!)
「——せいしゅん、よい!」
「……はい?」
たろーが目を開ける。
威厳たっぷりの校長が、満面の笑みで親指を立てていた(サムズアップ)。
「深夜の抜け出し。空を飛ぶカート。夜空を彩る花火。……うん、非常にエモい! 若者のエネルギー、大変よろしい!」
「校長、ノリ軽ッ!!」
九条が嬉しそうに笑う。
「だろ!? 一般人の青春って最高なんすよ!」
「うむ! 私も若い頃はよく、ペガサスで暴走行為をして怒られたものだ!」
「スケールがファンタジー!」
校長はひとしきり笑った後、コホンと咳払いをして表情を引き締めた。
「とはいえ。魔術統制法違反は違反だ。罰は受けてもらわねばならん」
たろーが唾を飲み込む。
「ば、罰って……退学ですか?」
校長はニヤリと笑った。
「まさか。放課後、学校の地下ダンジョンに潜りなさい。そして最深部にある『唯一無二の魔法の杖』を取ってくるのだ。それが君たちの罰だ」
たろーの目が点になる。
「……なんか急に、ガチの魔法使いみたいなイベント来た!」
⸻
放課後。
旧校舎の地下への入り口。
重い石の扉を開けると、そこには松明が燃える石造りの階段が続いていた。
「ダンジョン探検! RPGみたいだな!」
「罠とかあったら、全部爆破して進む?」
「ダンジョンごと崩れるからやめろ!」
薄暗い地下道を進む。
たろーがポツリと呟く。
「なんか……本当に魔法学校の生徒みたいだな、俺たち」
その時。
前方に、巨大な石の扉が現れた。
そして扉の前には——なぜか、現代日本の『自動改札機』がポツンと設置されていた。
「なんでダンジョンに改札!?」
りんがチェアから降りて、改札にICカードをタッチする。
『ピンポーン。魔力残高が不足しています』
「Suicaのノリで魔力要求された!!」
りんが無表情でカードに魔力を込める。
ピピッ。
電子音と共に、改札のフラップが開いた。
⸻
改札を抜けた先。
そこに広がっていたのは——
地下ホームだった。
「……駅じゃん」
たろーが呆然と呟く。
石造りの巨大ホーム。
天井には燃え盛る松明。
でも、その下にはLEDの電子掲示板。
【まもなく 奈落方面行きが到着します】
ゴゴゴゴゴ……。
生ぬるい風が吹き抜ける。
暗闇の奥から、巨大な光る目が二つ、猛スピードで近づいてくる。
ズドォォォォン!!!
現れたのは。
巨大な蛇だった。
地下鉄の車体みたいに異常に長い。
しかも側面に、普通にステンレスのドアが付いている。
『まもなく〜、奈落方面行き、魔導線が到着します〜。白線の内側までお下がりください〜』
「地下鉄ぅ!!」
プシュー。
蛇の側面のドアが、普通に横にスライドして開いた。
中には、すでに乗客がいる。
スポーツ新聞を読んでいるミノタウロス。
吊り革につかまって居眠りしている魔女。
優先席でスマホを見ている骸骨。
「世界観どうなってんだよ……!」
九条がテンション爆上がりで駆け出す。
「乗るぞぉぉぉ!!」
りんは迷わず、空いていた優先席へゲーミングチェアごと収まった。
『ドア閉まります。ご注意ください〜』
プシュー。
蛇が音もなく発車する。
『次は〜、地獄谷〜、地獄谷〜』
車内アナウンスが間延びした声で響く。
まおが窓の外を見る。
外は真っ暗。たまに、闇の中で巨大な目だけが光っている。
「めっちゃ冒険って感じ」
その瞬間。
ピンポンパンポーン。
『お客様にお願いいたします。車内での、召喚魔法のご使用はご遠慮ください〜』
九条が小声で呟いた。
「前にやった奴いるな」
「絶対まおみたいな奴だろ!!」
たろーのツッコミを乗せて、奈落行き魔導線は暗闇をひた走る。




