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推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


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第七話 魂の片割れ

 門扉から紛れ込んだヘルハウンドの最後の一頭に、とどめが刺された。

 それとほぼ同時に、帰還した騎士たちが、ずり落ちるように下馬し始める。


「各隊、点呼を!」


 関門内で待機していた第六騎士団長が声を張り上げる。

 それを受け、各部隊長が自隊へ点呼をかけていった。


 そのさなか、カイルは馬上でひしとエセルを抱きしめ、荒い息をついていた。


「生き残れた――

 あなたのおかげだ」


 エセルも神経が高ぶったまま、カイルの腕の中で身じろぎもできずにいた。

 心臓がバクバクと早鐘を打つ。


 ――もちろん、恋などではない。


「……すべては、団長のおかげです」


 思わず、エセルの口からこぼれた。

 囁きにも満たない声。


 けれど、その声は、確かにカイルの耳に届いた。


 カイルの目が見開かれる。

 次の瞬間、力いっぱいエセルを抱きしめた。


 そこでエセルは、自分が禁を犯したことに気づく。

 びくりと身を震わせた。


「――ご安心ください。

 私は何も聞いていない。


 一番様は、何もおっしゃっていません」


 ――私としたことが……

 カイル団長でよかった。


 一層、気を付けねば。


 覆面の下で、エセルは唇を噛み、俯いた。



 カイルがエセルを抱きしめていたのは、ほんの短い間だった。

 だが、その短い一瞬――

 ざわめいていた魔力が、彼の抱擁によって静まっていくのを感じた。


 彼は馬から慎重に降り、エセルへ手を差し出した。

 彼女を下馬させるためだ。


 その脇に、点呼を終えた第六騎士団長と殿(しんがり)を務めた隊長バルザックが立った。


「団長、全員無事帰還いたしました。

 一番様ともども、ご尽力、心より感謝いたします。」


「みな揃って帰還できたのは、殿を務めた貴君をはじめ、各々が尽力した結果だ。

 まもなく魔法士隊が到着する。

 北砦撤退部隊は、このままバルザックを隊長として王都へ帰還せよ。

 ――体力・筋力五倍の代償は大きいぞ。

 身体を休めよ。」


 カイルの言葉に、バルザックは騎士の礼で答えると、自部隊へと踵を返す。

 その背を見送ると、カイルは表情を引き締め、第六騎士団長へ向き直った。


「第三騎士団へ、北砦救出の一報を。

 魔法士隊到着次第、作戦会議を開く。

 総攻撃は明朝以降になる。

 それまで英気を養うよう、皆に伝えておけ。」


 第六騎士団長も騎士の礼をして去ってゆく。

 そしてカイルは、最後に再びエセルの前へ膝まづいた。


「一番様、先ほどは失礼いたしました。

 無事帰還できましたのは、ひとえに一番様のお力によります。

 心より感謝を――」


 カイルはエセルの手を取り、

 その指先に、いつものように口付けた。


 改まったカイルに、さっき近づいたはずの心の距離が、また遠のいたような気がした。


 エセルの胸が、きゅっと締め付けられる。


 悲しくて、

 何度も強く首を横に振った。


「一番様っ!こちらにいらっしゃいましたかぁ。」


 騒がしい声と足音がして、女がパタパタと駆けてくる。


 後発隊――六番から十五番の付与魔法士に随行してきた、事務員のマデルナだった。


 いつも王都南側を守護する第四騎士団も彼らとともに到着しており、

 関所はにわかに色めき立つ。


 マデルナの姿を見た途端、

 エセルは急に泣きたい気持ちになって、

 彼女の方へ駆け出してしまった。


 手を伸ばしかけたカイルのもとへ、

 到着したばかりの第四騎士団長が報告に駆け寄る。


 その一瞬で、

 二人の距離は遠のいた。


「マデルナぁぁっっ」


 エセルは彼女に抱き着くと、

 小さく悲鳴のような声をあげた。


「ど……どうしたんです? 何かあったんですか?」


 慌てたマデルナは、エセルを庇うように抱き寄せ、

 騎士の目の届かない場所を探す。


 とりあえず、付与魔法士用の天幕へ彼女を連れていった。


 天幕の入口の垂れ布を下ろした途端、

 エセルは覆面を乱暴に外し、

 わっと泣き出した。


「どうしよう――

 私……カイル団長が、好きなのぉぉっ」


 泣きじゃくるエセルに、マデルナはいつもの胡乱な目を向ける。


「はいはいはいはい。

 いつものことじゃないですか。

 泣くほどでもない――」


「そうじゃないのぉぉぉっ

 団長としか組みたくないし、

 団長にも私以外と組んでほしくない……


 こんな独占欲みたいなの――やだぁ……」


「……あらまぁ……それは――困りましたね。

 付与魔法士たるもの、組む相手は指名できませんし――

 エセルさんは令嬢として、団長から求婚されているわけですから。

 それでよいのでは?」


 マデルナは、努めて軽く言った。

 それでもエセルは、しゃくりあげながら首を振った。


「よくないの。

 今日の戦闘、本当にすごかった。

 もう、息がぴったりで、

 この人が魂の片割れなんだって思ったくらい。

 ずっと、こんな風に戦い続けたいって思った――。」


 エセルは目をこすりながら、言葉を続ける。


「なんで、付与魔法士は名乗れないの?

 どうしてこんなに息がぴったりなのに、

 専属契約できないの?

 それに――

 団長には、想い人がいるのよぉぉ。」


「……だからですよ。」


 マデルナはエセルの脇に腰を下ろし、

 彼女の肩を抱いて涙をぬぐった。


「付与魔法士の独占を防ぐため。

 騎士と特別な関係にならないように。

 特に貴族の御令嬢は、いらぬ憶測や瑕疵が付かないように――

 ……おわかりでしょう?」


「わかってる。わかってるけど――」


 なおも食い下がるエセルの背をポンポンと叩きながら、

 マデルナは言い聞かせるように続けた。


「夢中になれるのは貴女の美徳ですが――

 たまには冷静に俯瞰することも大切ですよ。


 今は、お疲れでしょう。

 総攻撃に備えて、ひと眠りなさってください。

 万全でなければ、団長の隣も守れません。


 さあ、私がちゃんと起こしますから。

 安心してお休みなさい。」


 マデルナは、腰かけていた仮眠用のベッドにエセルを横たえ、

 足元から毛布を掛けた。

 エセルはおとなしく従ったものの、

 しばらくは毛布の下から嗚咽が漏れていた。



 +++++



 ヘルマン率いる魔法士隊は、日没後まもなく関門へ到着した。


 総勢三十名ほど。


 彼らは付与魔法士とは違い、

 攻撃魔法で自ら戦う、名も身分も公表された戦士だった。


「しかし――よく集まりましたなぁ……。

 暗闇で光ってる、あの赤いの――全部ヘルハウンドの目でしょ?

 聞いてはいましたが――

 酷い数だ。」


 関門の上から月明かりの草原を眺めて、ヘルマンが苦笑する。


「森の砦は壊滅、北砦は放棄しました。

 この街道の先、キルシャの町まで封鎖しております。

 人間は一人もおりません。」


 隣で難しい顔でカイルが言えば、ヘルマンはちらりと彼を見上げる。


「――北砦撤退の話は聞きましたよ。

 団長ともあろうお人が、

 付与魔法士を一人連れて特攻したとか――」


「一番様を連れて行きました。

 彼女と私がいれば十分――

 そういう判断です。」


 カイルはしれっと言い切った。

 ヘルマンはため息をつき、ボリボリと頭を掻く。


「――付与魔法士の個を特定するのは、ご法度なんですがねぇ……。

 まあ、あいつは誤魔化しようもなく突出してますから――

 でもねぇ……」


「最高責任者にして随一の戦力である私に、一番の方をあてがっているだけですよ。

 きわめて合理的な判断です。他意はない。

 それより――

 総攻撃は明朝、日の出とともに。

 それでよろしいですかな?」


 司令官の顔に戻ったカイルは、横目でヘルマンを見た。


「ああ。

 今回は、広範囲魔法が得意な連中を揃えました。

 北砦撤退は英断です。

 気兼ねなく暴れさせられる。」


 ヘルマンも、にやりと笑って言った。


 カイルは草原の赤い光を見据えた。

 勝負は、夜明けだ。

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