表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

第三十五話 執着という名の愛

「くそー、降ろせ――っっ、陛下っ!お考え直し下さい――」


 今まさに城壁に吊られたプリニーツが、宙を蹴るように足をばたつかせていた。

 地に届かないと悟ってなお、その動きはやまない。


 エセルの婚姻問題の決着を待って、彼の処刑は執行された。

 彼は生きたまま吊るされ、絶命まで長く苦しむことになる。


 彼の隣には、成人した息子や娘たち、それから歴代の妻のうち、積極的に関与していた二名が首に縄をかけられて絶命している。

 即座に命を絶たれた分、彼らの方が“まだましな最期”だった。


 まだ背後で軋む縄の音を聞きながら――

 客室から騎士団の駐屯所に向かって、王城の中庭をゆっくりと、カイルとエセルは並んで歩いた。


「エセルの嫌疑は晴れた……だが、ブラント伯爵夫妻は、非常に厳しい立場にある。

 領内から違法魔法薬の製造工場が摘発された。」


「――そうですか」


 エセルはふと中庭を振り返った。


 見知った顔、見知らぬ顔――、多くの貴族や官吏が、処刑し、処刑されていた。

 流刑が決まったものは荷馬車に詰められ、領地や爵位を取り上げられただけのものは、その場にしゃがみ込んだり、呆然と立ち尽くしたり――

 裁く側、処刑する側も疲労の色が濃く、消耗している。


「――私も連座ですと、カイルさんにはご迷惑をおかけしてしまいますね……。

 婚約も、いったん白紙にしていただいた方が、良いかもしれません。」


「エセル嬢、それは、時期尚早だと思うよ?」


 横合いから声をかけて来たのはルークスだった。

 筆跡鑑定の一件以外にも多くの案件を抱える彼の腕には、おびただしい量の書類が抱えられている。


「君のご両親、ついさっき――、半日ほど前に、第十三辺境師団に“救出された”そうなんだ。

 領地の屋敷の地下牢に、夫婦そろって軟禁されていたらしい。

 今、王都へ輸送しているところだが――、自領に違法魔法薬の工場を建てられることを知らなかったか、合意していなかった可能性が濃厚だ」


 そう言うと彼は束の中から一枚の書類を抜き出してカイルへ渡す。


「写しだが、プリニーツとブラント伯爵の間で締結された書類。

 今のところ、何の変哲もない薬草の栽培と加工の契約が、半月ほど前に交わされただけだ。

 ちなみに、違法魔法薬工場は、一年ほど前から操業していることが分かっている。」


「――ブラント伯爵領を乗っ取ること前提で、無断で進めていた、ということか?」


 カイルは書類を一瞥して、エセルに渡す。

 一方エセルは、舐めるように隅から隅まで文字を追う。


「そうだねぇ。で、多分、途中で反目したんだ。

 だから、地下牢に夫婦そろって閉じ込められていたんじゃないかな?

 取り調べ前だから、確かじゃないけど――」


 ルークスはエセルが全て読み終えるのを待って、再びその書類を束に戻した。


「――私の両親だから、と容赦せず、徹底的に調べてください。

 私も、咎を負う覚悟があります。」


 据わった目でエセルがルークスを見返すと、彼は苦笑しながら返す。


「そんな覚悟しなくて大丈夫だよ。

 まず、そんな事、君のカイル団長が許さないと思うけど?」


「ああ、そもそも、あいつらの起こしたスタンピードを、隣国へなだれ込む前に止めた最大の功労者は、エセルなんだ……それを忘れてもらっては困る。」


 カイルも深くうなづいた。




「でも――、本当に、どうなっちゃうんでしょう……

 これじゃあ、王宮内の勢力が一変しちゃいますよね?」


 ルークスを見送って、騎士団の駐屯所へ再び歩み始めたエセルが、ぽつりとつぶやく。


「そうだが――取り潰しになったのは概ね亡命の新興貴族。

 古くからの家で関わった所は、当主の交代で終わるだろう。

 彼らが亡命してくる十年前に戻るだけ、だと思うがね。」


 カイルは、そっとエセルの腰に手を回して、自分の方へと引き寄せる。

 エセルは素直に彼へと身を寄せた。


「……ちょっとだけ、本音、言ってもいいですか?」


「――ああ、もちろん、構わない」


 カイルが言うと、エセルは一段と低い、周りに聞こえない声量で言った。


「――ルークスさんにはブラント家の娘として、ああ言いましたが……本当は、連座なんて嫌なんです。

 だって、私は全力でプリニーツとの婚姻を拒否したし、カイルさんは危険性を説いてくれたのに。

 お金に目がくらんで無視したのは両親じゃないですか……」


「そうだな……もちろん、私は君をあきらめるつもりも、咎人にするつもりもないが……

 よく思い出してくれ、私か゛君の父上へ直談判した時――

 既に事業提携が始まっているようなことを言っていた。先ほどの書類も少し前の日付だった。」


 カイルはエセルの顔をのぞき込む。


「お父上は、私の警告を聞いてくれたのかもしれない。

 だからあれ以上の契約書は出なかったし、結果的に地下牢に閉じ込められた――

 まあ、取り調べが済むまでは推測の域は出ないが、君に累が及ぶ確率は、非常に低いと私は思う。」


「――そう……でしょうか……」


 まだうつむいたままのエセルを、カイルは一瞬黙って見つめた後、

 そのおとがいに指をかけ、優しく顔を上向ける。


「たとえ君に累がおよび、罪を問われたとしても、私は君を手放さないよ。なぁ……エセル?」


 それでもエセルの視線は下がったままで、カイルから逸らしている。


「……嫌ですよ、カイルさんに迷惑がかかるじゃないですか。

 騎士団総長の相手が、そんな瑕疵のある女だなんて――

 だから、せめて一旦保留に――」


「嫌だね。よし、明日にでも、正式に婚約する旨を陛下に報告しよう。

 侯爵家以上の婚姻は、陛下の承諾が必要だから。

 婚姻も最短で結ぶ。すぐにでも君を妻にしたい。」


 一気に言い切ると、往来なのも気にせず、カイルはエセルを抱きしめて、腕の中へと囲い込んだ。


「ちょ……ちょっと……カイルさん?!

 落ち着いて! わかったから、離して――」


 周囲の目を気にして慌てて暴れるエセルを、カイルはいとも簡単に抑え込んでしまう。


「いーやーだ。もう決めたんだ。

 私はエセルを離さない。婚約中も、結婚後も――ひと時たりとも離すものか。」


「え……えぇぇ……騎士団総長の仕事は、どうするんですかぁ……

 私だって、付与魔法士を辞めるつもりはさらさらないんですけど……」


 エセルが困ったような、情けない顔で言うと、カイルは涼しい顔で答える。


「ヘルマン団長と、マデルナ女史のように、個人契約を結ぼう。

 私が君を独占する。国家にだって分けてやるもんか。」


「……カイルさん……実は、私のこと……好きすぎでしょ……?

 っていうか、もしかして、これが素? これが本当のカイルさんなの?!

 いつからそんなにこじらせてたんですかぁぁぁ」


 エセルは顔を真っ赤にして、悲鳴のように細く叫ぶ。


「――実は、五年前から……“一番様”は私が独占すると、決めていた。

 そのために、私がどれだけ研鑽にはげみ、君にふさわしい騎士であろうとしたか……

 たぶん、君が思っている以上に、私は君の事を愛しているし、

 醜悪なほど、おそろしく執着している。」


 言っている内容とは裏腹に、とんでもなく色っぽく囁かれた言葉に、

 エセルの腰はあえなく砕け、その場にへたり込みそうになったのを、カイルは嬉々として支える。


 そのまま横抱きに抱き上げて、カイルは上機嫌で駐屯所へと向かった。


 凄惨な処刑場化した王城の中、カイルの周りだけ、まるで花が咲いたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ