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推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


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第三十四話 その婚姻は、偽り

「陛下、ブラント伯爵令嬢は、私の婚約予定者で――、“魔力の(つがい)”です。

 既に私たちは一心同体。彼女を拘束するなら、私も共に参ります。離れることはありません。」


 カイルが一歩も引かない決意を込めた目で国王を見返し、剣の柄を握り直すと、獄卒たちは気迫に押されて半歩後ずさる。


「――落ち着くのだ、ヴァルデン卿……」


 国王は、静かに片手を上げて獄卒たちを制した。


「……早計だな、プリニーツ。

 “一族郎党”と便宜的に言ったが、私が各自の罪状を調べず、雑に決めているとでも思ったか?」


「……」


 先ほどまで高笑いしていたプリニーツは、顔色を失って黙り込んだ。


「こちらとて、短期間とはいえ、綿密な調査の上、一人一人の処遇を決定しているのだ。

 ただ、貴様は『ブラント伯爵令嬢と婚姻を結んでいる』と主張した。

 これは我々のあずかり知らぬこと。

 真偽を確かめねばならんし、彼女の潔白のためにも、厳重に取り調べねばならん。」


「そうだとしても、私は彼女の傍らを離れません。」


 カイルは剣を納めてもなお、眼光鋭く言い放った。

 国王の目がわずかに細められ、口端が苦笑に歪む。


「――“(つがい)”ゆえ、か。」


「そうです。番は、“騎士の誓い”より優先されるはずです。」


「……よかろう。

 しかし、ヴァルデン卿が“魔術師の番”となるとはな……我が国にとっても、まさに僥倖――

 故に、はっきりさせねばならぬ。」


 国王は再び表情を引き締めると、獄卒たちに合図した。



 +++++



 エセルとカイルが連れてこられたのは、客室の一つだった。


 てっきり、地下の尋問室にでも連れていかれると思っていたエセルは、少し拍子抜けしてしまう。


「国王はあの場ではああ言いましたけど、プリニーツの言うことなど、真に受けてないと思います。

 なぁに、ルークス殿が念入りに調べてるんですから、すぐに潔白が証明されますよ。」


 彼らの見張りに立ったのは儀典長で、二人の前でのんびりとティーカップに口を付ける。

 国王の信任は厚いが、本来このような業務にあたる人物ではない。城内の人手不足を如実に表していた。


「ならよいのですが――、本当に私、プリニーツからの婚約は承諾していないんです。

 それが、突然もう入籍しているなんて……」


 エセルが不安げに瞳を揺らすと、カイルがその肩を抱く。


「彼女からの婚約の申し出を受け入れ、ご両親にもあちらには断りの連絡を入れるよう要請しました。

 それ以来、私が彼女を保護しています。彼女に、あいつと結婚している暇も、婚姻届けに署名する隙も無いと思いますが……」


 カイルも眉根を寄せると、ドアが突然開いた。


 それは第七王女のシャーロットで、制止する侍女たちを振り切って入って来た。


「私の侍女に、嫌疑がかかってるですって?! プリニーツの妻だなんてっ!

 ヴァルデン卿との橋渡しをした私の面目丸つぶれじゃないっ!

 だいたい、あのブタ、目つきがいやらしいのよっ!」


 シャーロットは一気にまくしたてる。


「王女殿下、エセル嬢は裁定中――勝手なことをされては困りますよ。

 陛下にまた叱られてしまいます。」


 侍女は慌てていさめるが、シャーロットはフンと鼻を鳴らす。


「お父様もお父様よ! エセルは名目上では私の侍女なの。

 なのに、私をのけ者にするなんて――」


 それから、エセルの方へ向き直ると、彼女はにこりと笑う。


「災難だったわね。大丈夫、任せて頂戴。

 貴女がヴァルデン卿と婚約予定なのは、私が証言するわ!」


「――王女殿下、勇ましいのは大変結構ですが――」


 開きっぱなしのドアから、声がかかる。

 それは騎士隊のルークスで、一枚の書類を持って険しい表情をしていた。


「カイル団長、エセル嬢、不利な証拠が出た。

 王都西教会に、婚姻届けが十日ほど前に提出され、既に受理されていた。」


「なん……だって?」


「で……でもっ、婚姻は家同士でも、署名は最終的に本人しか――

 私、署名していないから偽造では……」


 カイルもエセルも思わず立ち上がった。

 ルークスは二人に一枚の書類を差し出す。

 それは、婚姻届けで、司祭の署名や印も押された正式な物で、プリニーツの名に並んで、エセルの署名もある。


「筆跡鑑定で、本人と認められた。

 残念ながらエセル嬢は、正真正銘、プリニーツ伯爵夫人だ。

 婚姻は解消できても、記録は残り、傷がつく。」


 ルークスが悲痛な面持ちで目を伏せる。


「そんな……、でも、最低でも宣誓式を行って、司祭の前で署名しないと成立しないですよね?

 私、その期間は王都にいませんでしたし、西教会にも行ったことない――」


 エセルが詰め寄るが、ルークスは首を横に振る。


「その署名の司祭も西教会も、プリニーツから多額の献金を受け取っている。

 既に捜査は入って、司祭は拘束されているが――、署名が本人だと認められた以上は……」


 一方、カイルは差し出された書面を、黙ったまま穴が開くほど観察していた。


 紙をすかし、筆跡をなぞり、何度も裏返して――


「違う」


 やがて怒ったように、書面をルークスに押し返した。


「鑑定士の目は節穴か? これはエセルの筆ではない」


「いや、ハイレンツ分析官の仕事だぞ? それに他の分析官の目にも触れている。

 間違うことなど――」


「――彼らは“王宮侍女のエセル・ブラント”として鑑定したのだろう。

 だが違う。彼女は筆頭付与魔法士だ」


 カイルは書面を指で叩いた。


「エセルの筆跡には、必ず魔力が乗る。

 だが――この署名には、それが一切ない」


「は? 筆跡に魔力? そんなの聞いたことないぞ?」


「だろうな。私も彼女以外に知らん。

 だからこそ、分析官どもも見落とした」


 カイルは一歩踏み込む。


「疑うなら、魔術管理局の記録と、私に送られてきた手紙、

 そしてこの署名――魔力を比較すればいい。結果は一目瞭然、のはずだ。」


「わ……わかった……」


「私への手紙は、団長室の執務机に入っているから、そこから持っていけ。

 分析には、魔術痕跡に長けた者を入れろ。」


 ルークスは、カイルと書面を何度か見比べて、敬礼し、再び分析するために去って行った。


「大丈夫よエセル。貴女の潔白は、きっと証明されるわ。」


 シャーロットがエセルの両手を取り上げて、包み込む。

 エセルは声もなく、何度も頷いた。



 そして間もなく――


 乱暴に扉が叩かれた。


「団長!」


 息を切らしたルークスが飛び込んでくる。


「出た。鑑定結果だ――

 あの署名、やっぱり偽造だ」



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