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推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


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第二十話 臨時拠点と秘匿事項

「で……では、カイル……さんっ……」


「……まあ、いいだろう。段々慣れてくれればいい。」


 騎士たちが集まるのを待つ間、エセルはどうにか呼びかけを成功させた。

 カイルはそれに、満足げにうなずく。


 やがて精鋭が集い、その顔ぶれを見た瞬間――


 ――第六騎士団の、北砦撤退の皆さん……!?


 エセルの前には、半月ほど前、ナデリの関所で別れた第六騎士団の精鋭部隊が、整然と膝をついていた。

 先頭では、北砦撤退部隊の殿(しんがり)を務めたバルザックが、胸に手を当てている。


「団長の想い人さまの護衛と聞き、馳せ参じました!」

「“魔術師の塔”の危機は、付与魔法士さまの危機!」

「我らは付与魔法士さまに救われた身――この機会に、ぜひともご恩をお返ししたい!」


 ――ん? んんん……?


 付与魔法士――その不穏な単語に、エセルはカイルを見上げた。


「あのぉ……皆さん、何か勘違いされていらっしゃいませんか?

 私は、一応、カイル団長の婚約者ですが……しがない魔法薬生成士ですよ?」


「――ルークスも言っていたが、私が、ここ数年来、筆頭付与魔法士どのへ懸想していたのは、有名な話だ」


 エセルの訴えに、カイルはツンと澄ましたまま、ぽつりと答える。


「だから、私が婚約した令嬢が“一番様(いちばんさま)”――

 彼らは、そう確信しているのだろう」


「――え?」


 さらりとした爆弾発言に、エセルの頭は真っ白になった。


「よし、そろったな、おまえたち。

 これから我々は、こちらの魔法士どのと共に、“魔術師の塔”の臨時拠点へ向かい、魔法士団長どのの護衛任務にあたる!」


 カイルはそんなエセルを置き去りに、騎士たちへと号令をかける。


「付与魔法士どのはじめ、魔法士団には日ごろ大恩がある!

 今こそ、“魔術師の塔”の危機に馳せ参ずるとき! 皆の者、心してかかれ!」


「「はっ!!」」


 ――あれれれ……、私が一番だと思われてる?

 でもだから、騎士団は魔法士団を全面的に支援するってこと??


 だめだ。何か色々と理解が追いつかない……


 エセルは、とりあえず考えることをやめた。



 +++++



 騎士団の駐屯所から王城を抜けたのは、第六騎士団の三部隊。


「……やはり、プリニーツ伯爵の私兵が後を付けているな……」


 馬上のカイルは、ちらりと目だけで背後を伺う。


「第二、第三部隊が足止めいたしましょう。その間に奴らをまいて臨時拠点へ。

 中央広場で落ち合う、というのはいかがでしょうか」


 バルザックが馬を寄せて進言すれば、カイルは大きくうなずいた。


「よし、第一部隊は私に続け! 残りの隊はバルザックに従え!

 ――散開っ!」


「「はっ!」」


 ――なら、彼らが無事でいられますように……


 騎士たちが散り散りになる直前、カイルの前に座るエセルは、そっと目をつむり、心の中で詠唱する。


 ――体力増強、認識補強“陽動”付与……


 バルザックがハッと振り返り、目を見開く。

 カイルは手を振り、黙っていろと合図した。


 エセルは続けて、自隊にも付与を施す。


 ――体力増強、認識阻害シールド展開……


 瞬時に馬たちの機嫌がよくなり、第一部隊の騎士たちも異変に気が付いた。


「行くぞ! 続けっ、遅れるなっ!」


 カイルを先頭に、第一部隊十余名は、風のように王都を駆け抜ける。

 エセルは部隊の行く手、少し先に路地や人影が見えるたび、簡易のシールドを張り、接触事故を防いでいった。

 シールドは瞬時に解除され、足止めされていた通行人もまた、追手の障害となる。


 目的の街区に辿り着く頃には、すっかり追手はまいており、目的の通りでは馬は並足で進んだ。


「……その家、ですね。皆さん、その空き地でお待ちいただけますか?」


 ――騎馬隊がこのような路地にひしめいていては、目立ってしょうがない。


 目的の家が見えたところで、エセルは空き地の一つを指さした。


「よし、一旦ここで待機!」


 カイルもその空き地に馬を乗り入れる。

 騎士隊もそれに続き、エセルはその空き地全体を覆う、強固な認識阻害のシールドを張った。


「――無詠唱で、これほどのシールドを……」


 下馬したカイルが空を見上げてため息をついたが、エセルの耳には届かない。


「私と、カイル団長で行きましょう。」


「……『カイル』でいい」


 エセルの言葉を訂正して、カイルは彼女の隣に並んだ。


「……カイル……さんっ」


 まだ呼び慣れず、彼女は頬を染めて視線をそらした。




 目的の家のドアを叩くと、しばらくして覗き穴から外をうかがう気配がした。

 やがて慎重に、ドアが開けられる。


「エセルさん! カイル団長もっ!」


 言葉を詰まらせたのは、少し前に別れた事務員のマデルナだった。


「みんなは? ヘルマンさんは無事なのっ?」


 カイルと素早くドアの内側に滑り込みながら、エセルが尋ねれば、マデルナは深くうなずいた。


「ええ。本日出勤していた魔法士と付与魔法士は、全員退避済み。

 自宅か、ここに避難しているわ」


「良かったぁ……」


 狭い廊下を進むと、突き当たりにドアがあった。

 その先は――


 外観からは想像できないほど広く、貴族が滞在するにふさわしい、整えられたロビーとなっており、

 何人かの魔法士や、付与魔法士と思しき令嬢たちがくつろいでいる。

 カイルの姿を認めて、一瞬緊張が走ったが――


「みんな、大丈夫よ。ヘルマンさんから特別許可が下りてる」


 マデルナが声を張り上げると、各々歓談へと戻っていった。


「――まあ、カイル団長。そういうことなので、くれぐれも魔法士たちについては他言無用で」


 言いながら、一番奥のドアを軽くノックして開いた。


「エセル、お疲れさん。おまえさんが騎士団に行ってくれて、大変助かったよ。

 カイル団長、ご助力感謝する」


 部屋の奥の執務机から、先ほど別れたばかりのままの姿で、ヘルマンが立ち上がってやってくる。


「――ったく……ヘルマンさん、私がカイル団長の所へ行っていなかったら、どうしたんですか……」


 エセルが毒づくと、ヘルマンはニヤニヤと笑った。


「行かないわけないだろう?

 そうだ、特別措置で、カイル団長へ“お前の秘匿事項”の開示を許可してもいいが――」


 ヘルマンの言葉に、エセルの目がぎょっと見開かれた。


 ――“秘匿事項の開示”って……私が付与魔法士だって、カイルさんに打ち明けていいってこと?


「どうする?」


「――許可を……。でも、タイミングは私に任せてください」


 目を据えたエセルは、重々しく言った。


 ヘルマンはフッと笑うと、視線をカイルへと移した。


「――ということです、カイル団長。うちのエセルから大切な話があると思いますが、受け止めてやってください」


「承知しました。で――王城からの返答は?」


「残念ながらまだ――。ただ、待っていても仕方ないので、あなた方がいらっしゃったら出立しようと思っていました」


「――行ったところで、陛下に面会するあてはありますか?」


 カイルが目を細める。


「もちろん。我々は、陛下の臣民であると同時に、良き隣人でもありますから――

 このような非常事態の時には、会っていただきますよ」


 ヘルマンは、にこりと笑った。


 そんなヘルマンの顔を見つめていたカイルは、ふと思い出したように懐を探る。

 取り出したのは、レイブル次官が置いていった、四つ折りのあの書状だった。


「このような物が、魔術管理局を通じて、第五王子殿下から発給されています」


「――ほう……」


 カイルから紙を受け取り、文面に目を通したヘルマンの顔つきが、険しくなる。


「騎士団への捕縛依頼ですが、型式や書式がなっていないので、正式には受理していません。

 プリニーツ伯へ直接引き渡せ、とありますが――こちらの名簿に、何か思うところはありますか?」


「ふむ……プリニーツ伯が、このメンバーを欲しい、と……

 精神系の術者と、広域魔術を展開できる者――伯は、戦争でも始めるつもりですかね」


「――この者たちは、どこに?」


 ヘルマンは上から順にひとつひとつ名前を確認し、最後まで読み終えると、カイルへと書状を差し戻した。


「数名を除いて、この臨時拠点に退避しています。

 いない数名も自宅に待機しているので、とりあえずは安心かと」


「それなら……ひとまずは、安心しました。では――出立しますか?」


 カイルは再び書状を懐にしまった。

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