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推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


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第十九話 塔閉鎖と呼び名の問題

 ルークスは書状をひらりと振った。


「で――、団長……どうする?」


 カイルは顔を上げる。


「――情報収集。

 お前にはそれしか能がないだろう?」


 冷たく目配せされ、ルークスはため息をついた。


「はいはい。でも、こっちも事前情報は一切なしだ。

 “魔術師の塔”で何かやらかした――それくらいしか筋が通らん。」


「確かに――」


 カイルが言いかけると、彼とエセルの間――

 エセルのポケットで、懐中時計が小刻みに震え始め、二人してビクリと身を震わせた。


「あ――、ごめんなさい。通信――です。」


 エセルはとっさに懐中時計を取り出して、反射的にふたを開けた。


 カイルの目が見開かれ、ルークスの目が細められる。


「……エセル嬢、それは“魔術師の塔”に所属するものが持っている物では――。」


 カイルの言葉に、エセルはピシリと固まった。


 ――しまったぁぁぁぁぁぁぁっっっっ

 バレた! 終わった! 私のばかぁぁぁぁ!


「あ――カイル。報告してなかったが――

 エセル嬢、“塔”の魔法薬製造ラインに入る話が来てる。

 な? そうだよな?」


 ルークスが少し上ずった声で言った。

 エセルはハッと彼の顔を見て、ごくりとつばを呑む。


「そう……なのか?」


 カイルは首をかしげる。


 ――えっえっ……まあ、まだ受けるか返答はしていなかったけど……

 なんでこの人、それ 知ってるの? 


 エセルの目が雄弁に語れば、ルークスはパチリと片目をつむった。


「あー、俺、第一騎士団所属のルークス・カーターだ。

 諜報も少々かじっている。内密に頼む。」


「は……あ……よろしく、です……

 そっ、そうなんですよぉっ。はい、来月からその予定でして。

 先ほどヘルマン団長の部屋にいた時、プリニーツ伯爵たちに見られたから、付与魔法士と間違えられたのかも~」


 エセルは先ほどのリストの疑惑まで解消しようとエセルはさらに言い募る。

 その言葉に今度はカイルの目が細められる。


「――プリニーツ伯爵と、“魔術師の塔”で出会ったのか?」


「え? ええ。ヘルマン団長の執務室で、ばったり――

 魔術管理局の次長も一緒で……

 付与魔法士のリストまで、伯爵に開示されていて……団長、怒っていました。」


 エセルの言葉に、二人そろって額に手を当て、顔をしかめた。


「おい――、マジかぁ……そりゃあ、塔が閉鎖されるわけだよ……」


「よりによって伯爵に、とは……

 では、団長や魔術師を伯に直接引き渡せとは、実質私物化しようとしているのか?」


「十中八九そうだろう。」


 ルークスがつぶやいた、そのとき――エセルの懐中時計が再び震え始め、

 次の瞬間、強制的に音声通信へ切り替わる。


『もしもし、エセル? カイル団長と合流できたんだろ?』


 懐中時計から聞こえてきたのは、ヘルマン団長の声だった。


「あ゛……ヘルマンさん……

 なんで、わかるんですか……」


 ――あ゛あ゛あ゛……!

 この距離感――もう言い逃れできない!


 ヘルマンは構わず続ける。


「あー、その通信装置、発信機が付いてるんだ。

 ……言ってなかったか?」


「聞いていないですぅ……!」


 その言葉を遮るように、カイルが口を開いた。


「ヘルマン団長、騎士団総長のカイル・ヴァルデンだ。

 “魔法薬生成士”のブラント伯爵令嬢は、私が保護している。

 先ほど我が騎士団に魔術管理局から君たちのクーデターの知らせが届いた。

 ――これは事実か?」


『……“魔法薬生成士”……ね。

 そういうことになっているんだね。』


 通信機の向こうで、ヘルマンが笑いを押し殺した。


「率直な返答を頼む。返答次第では、君たちを拘束せねばならない。」


 カイルはあくまでも慇懃に言った。

 エセルははらはらとカイルを見やる。


『伝令が行っただろう?

 我々は第三十五号事案により、魔術管理局との関係は破綻した。

 塔は閉鎖している。

 無断での重要事項の漏洩――断固として抗議する。


 よって――

 陛下との会談の場までの護衛を要請する。』


「王城への通達は済んでいるか?」


『ああ。すでに宰相殿へ通達済みだ。

 よりによって、あのプリニーツ伯への漏洩は、我々魔法士の生命にかかわる。

 ――すでに、付与魔法士が数名、退職後に行方不明だ。

 有能な者への脅迫まがいの――勧誘事案(婚約)も発生している。』


 ――私だけじゃなかったのぉぉぉぉっっ!


 エセルは思わず叫びそうになって、言葉を呑み込んだ。

 カイルは一瞬エセルを見てから口を開く。


「――承知した。

 こちらもプリニーツ伯の件は把握している。


 騎士団が護衛を引き受ける。

 ――王城までの安全は保証しよう。」


 今度は一拍、ヘルマンが沈黙した。

 そして、言葉を継いだ。


『――協力に感謝する。

 エセルに仮設拠点までの地図を渡してある。


 王城からの返答を待っている余裕はない。

 ――すぐに来てくれ。時間がない。』


 通信は唐突に切れた。


「……おい、プリニーツの件、きな臭いな。こっちも動くか?」


 横から様子をうかがっていたルークスが口を出した。


「――拘束できるだけの証拠は確保しているのか?」


「できないことはない。が――、少し弱い。」


 カイルはエセルを立ち上がらせながら自分も立ち上がった。


「弱くてもいい。身柄の確保、それから強制捜査に持ち込め。」


「タイミングは?」


 ルークスも踵を返し、執務室の鍵を開けながらたずねる。


「――会談終了直後を狙え。」



 +++++



 ルークスが慌ただしく去っていく。


 それを見送ると、カイルは鈴を鳴らして伝令を呼び、

 自分の手勢から精鋭を選んで招集をかけた。


「エセル嬢――、地図は起動できるか?」


 駐屯所の前庭へ向かう道すがら、半歩後ろを歩くエセルに問いかける。


「あ、はい、チップを預かっています。

 横へ差し込めば――

 わぁ、こんな風に立ち上がるんですね!」


 懐中時計の盤面から光の板がぼんやりと立ち上がり、やがて空中に地図を書き出した。

 エセルが腕を振れば地図も動き、時計の長針がある一定方向を指し示す。


「この針の方角へ向かえばいいのかな……

 あ、こうすると、地図の大きさが変えられました!」


 エセルが指でなぞると、地図の縮尺がスルスルと変わってゆく。

 やがて画面の端に、小さな赤い点が明滅しているのが見えた。


「――この線が道で……これが用水路か……

 とすると、ヘルマン団長は、王都の中に仮拠点を設けたようだな。」


「わかるんですか?」


「ああ、この線は城壁だろう?

 騎士団員は、王都の地図は頭に叩き込んでいるからな。見ればすぐわかる。」


 カイルはわずかに口元を緩めた。


 しかし、エセルがその赤い点を中心に地図を大きくすると、カイルの表情が怪訝に曇る。


「ここ……か? ここは住宅街だが――、“魔術師の塔”の機能が入るような建物はないぞ?」


「そうなのですか?」


「ああ、王都でも比較的貧しい地域で、狭い長屋ばかりの地区だ。」


 さらに拡大すれば、小さな家屋がひしめきあっている様子が描かれていた。

 赤い点はその一つを指し示している。


「――ヘルマンさんは、空間系の魔法が得意ですから、何か仕掛けがあるのかもしれませんね。

 まあ、行ってみればわかるでしょう。」


 話しているうちに、二人は前庭へと出た。

 呼び出した騎士はまだそろっていなかった。


「そういえばエセル嬢――?」


 カイルが隣に立ったエセルに、何食わぬ顔で声をかけた。


「はい、カイル様、何でしょう?」


 エセルがちらりと横目で見上げると、カイルは視線だけ向けて問いかける。


「君は、ヘルマン団長を、『さん』付けで呼ぶのだな?

 それに、あちらも君を『エセル』と呼び捨てにしていた。」


「……魔法士団の慣習ですよ。それが?」


 エセルはいぶかしげに首をかしげる。


「“婚約者の私”が、“婚約者のあなた”を、『エセル嬢』『カイル様』と呼び合っているのに――

 職場の上司の方が親しいのは、いかがなものか……」


「……はい?」


「ヘルマン団長に、『エセル嬢』と呼ばせるか――

 私に『エセル』と呼ぶ許可が欲しい。」


 カイルは、やけに間を置いて言ったが、エセルはますます不思議そうな顔をした。


「はぁ……、私など、何と呼んでいただいてもよろしいですが――」


 すると――

 エセルの回答に、カイルは嬉し気に笑みを浮かべると、彼女に顔を向けて言った。


「では、エセル――」


 ――っっっっっ


 呼ばれた瞬間、エセルの身体に衝撃が走り、心臓が射抜かれた。


 ――カイル様に呼び捨てされたぁぁぁぁぁぁっっっっ

 尊いっ! 尊死するぅっ!


 ふらりとよろけかけたところに、カイルがとどめを刺す。


「私のことも『カイル』と呼んでほしい。」


 ――はぅぁ……っ、それは……


「恐れ多すぎでするぅぅぅぅぅぅ」


 とうとう、本性が出た。

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