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推しの騎士団長に玉砕するはずでした――利害一致から始まる偽装交際。三十歳年上の変態伯爵の九番目の妻にはなりたくありません!  作者: じょーもん


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第十八話 時間を稼ぐ

「“魔術師の塔”より伝令っ! 緊急事態発生っ、第三十五号事案により、塔が閉鎖されました!」


 カイルの執務室にノックも惜しむ慌ただしさで兵士が駆け込んでくる。


「第三十五号――背信的情報漏洩か!? それで閉鎖までとは、いったい何が――」


 まだカイルの机の前に立っていたルークスが振り返りながら眉をひそめた。


「閉鎖、だと?!」


 ――今日はエセル嬢が塔に……


 喉元まで出かかった言葉をカイルは呑み込む。

 エセルが“魔術師の塔”に出仕していることは公になっておらず、この伝令の兵に聞かれるわけにはいかなかった。


「魔法士団長とは連絡はとれるか!? 所属の魔法士たちはどうなったっ!!」


 カイルは、焦る心を押し殺し、差しさわりない情報から探る。


「――不明ですっ。騎士団との敵対案件でなければ、続報は入るはずですが……」


「クソッ……知り合い――が塔にいる。閉鎖なら、迎えに行っても無駄か……」


 ダンッと机を拳で叩き、カイルは吐き捨てる。


「落ち着け。緊急事態の申し合わせはないのか?」


 ルークスがたずねれば、カイルは首を横に振った。


「――ない。まだそのような事態は想定していなかった。」


「不覚だな。」


 ルークスの細められた眼に、カイルはギリリと奥歯を食いしばった。


 と、その時――、

 にわかに廊下が騒がしくなった。


 複数名の足音が近づいてきて、やがて先ほどから開きっぱなしになっていたドアに人影が立つ。


「カイル団長! “団長の”エセル嬢をお連れしました!」

「我らが女神、エセル嬢をお連れしましたっ!」

「至宝の聖女、エセル嬢をお連れしましたっ!」


 騎士たちに囲まれて現れたのは、

 カイルに申し訳なさそうな苦笑いを向ける――


 エセルだった。



「――――っ」



 カイルは一瞬呆けて目を見開き、

 それから椅子を蹴って立ち上がると、大股でエセルの元まで行く。


 そして、無言でひしと彼女を抱きしめた。


「――良かった……、無事だったんだな……」


 髪に鼻をうずめ、ため息とともに吐き出した。


 エセルは、一瞬固まると、やがてわたわたと周りの騎士たちの反応を伺った。


 騎士たちは――、大して驚いていない……ばかりか、誰も眉をひそめる者はいない。

 皆、当然のことのように、温かい笑顔で見守っている。


「カ……カイル様っ?! ちょっと――」


 エセルが焦っていると、


「何か知らないけど、良かったですね!」

「それじゃあ、俺たちはこれで――」


 と、騎士たちはそれだけ言い残して去って行った。


 廊下の足音が遠ざかり、室内に静けさが戻る。


「カイル団長? そろそろ放してやったらどうだ? エセル嬢――困っているぞ?」


 ルークスがたしなめると、カイルはハッとして顔を上げたが、

 エセルを放すそぶりは見せない。


 彼女の肩を抱いたまま、応接セットのソファーへといざなった。


「――騎士様たち……すごくご親切でしたが――一体……?」


 カイルの隣に座らせられたエセルが戸惑いながらたずねる。


「ああ……彼らは、私に想い人ができたと喜んでいるのだよ、うん。」


「そ……そうなんですか……? それにしては、私を――おかしな称号で呼んでいましたが……」


 ――女神だの、聖女だの……まさか、付与魔法士だってバレた!?


 エセルは内心青くなりながらたずねると、今度はルークスが執務室の扉を閉めながら言った。


「あー、それはさぁ、あいつら、勘違いしているんだ。

 カイル団長が、以前から付与魔法士の一番様に懸想しているのは騎士の間で有名だから――

 団長が特別扱いしているエセル嬢が、一番様の正体だって信じているんだよ。」


「――一番……さま。」


「ああ、あいつら、戦場で救ってもらったから、“一番様”を女神か聖女みたいに思ってるんだ。」


 ――ひぇぇぇぇぇぇぇっっっっ

 その推理! 大当たりですっ!


 でっ……でもっ!

 まだ、決定ではないですよねっ!

 私が一番だって、信じているだけですよねっ?!


 エセルはダラダラと冷や汗をかきながら、叫び出さないよう口をつぐむ。


「……好きに言わせておけ。」


 カイルは涼しい顔で言った。


 ルークスもソファーの方へ向き直りかけた、その時――


 ドンドンドンドン――


 再び執務室の扉が激しく叩かれる。


「――伝令っ! 魔術管理局より使者ですっ!」


「“魔術師の塔”の続報か?」


 ルークスは即座に扉へ戻る。

 カイルは弾かれたように立ち上がると、エセルを机の下へと押し込む。


 扉からエセルが見えなくなったと同時に、騎士に伴われて入って来たのは――


 魔術管理局のレイブル次官と、プリニーツ伯爵だった。


「魔術管理局より、騎士団に依頼である。

 “魔術師の塔”が、第四号事案により閉鎖――

 魔法士団長ヘルマン以下、魔法士どもが逃亡している。

 名誉顧問第五王子殿下より、魔法士の捕縛命令が下った。」


 レイブル次官の言葉に、ルークスの眉がピクリと動いた。


「――先だって“魔術師の塔”から伝令が来たが……

 閉鎖は第三十五号事案……君たち魔術管理局の背信によるものだった。

 それが、今は四号――王国に対する背信……クーデターだというんだな?」


「いかにも。こちらが、指名手配を行いたい魔法士のリストである。」


 レイブル次官とプリニーツ伯爵は、ずかずかと室内へ入ってくると、

 執務机越しに、カイルへ書簡を差し出した。


 カイルはピクリとも無表情を崩さずにそれを受け取ると、

 たたんであるだけのその紙をおもむろに開いた。

 机の下ではエセルが自分の口を押さえて、息を殺している。


「ヘルマン団長に……名だたる魔法士が五名。

 それから――このご令嬢方は?」


 カイルがリストの下の方にある女性名を指さした。

 今度はプリニーツ伯がニヤニヤと笑みを浮かべる。


「それは、付与魔法士どもだ。私の婚約者も入っておる!」


「付与魔法士どのの氏名や素性は、最高機密の秘匿情報だと存じておりますが――」


 カイルが目を細めると、プリニーツ伯爵は、ダンッと執務机に手を叩きつけた。


「状況が変わったのだよっ! つべこべ言わず捜索したまえ。

 貴様は第五王子殿下――王族に楯突くつもりはないだろう?」


 カイルの目が、さらに細くなる。

 しばらく沈黙した後、ふっと視線を落とした。


「わかりました。」


「フン、見つけ次第、私のもとへ移送しろ。

 何しろ私は――魔術管理局の外部顧問であると同時に、“魔術師の塔”の外部顧問でもあるのだからな」


 プリニーツ伯は噛みつかんばかりに身を乗り出し、やがて踵を返した。

 が、扉のところで、ふと振り返った。


「貴様、私の婚約者を私邸に匿っているらしいなぁ?

 戻り次第、ちゃんと捕縛しろよ? 夢にも自分の物にしようなどと思わぬことだ。」


 言い捨てて意味深に笑うと、今度こそ去って行った。



 足音が遠ざかり、やがて完全に途絶えると、ルークスは扉に向かって歯をむき出し、しっかりと閉めて鍵をかける。

 カイルは机の下のエセルを覗いた。


 エセルは、小さく丸まって自分を抱きしめ、口を押さえ、震えが止まらない。


「――もう、大丈夫だ。」


 カイルが手を差し伸べるが、エセルは動こうとしない。

 彼女の膝裏に手を差し込み、頭をぶつけないよう抱き上げた。


「安心しろ。君をあいつになんて、絶対に渡さない。」


 カイルが静かに笑みを浮かべれば、エセルはその顔をじっと見あげて、

 やがて――その胸に顔をうずめた。


「でも――王子の書状がありますよねぇっ?

 その中に、私の名前……あるんでしょう?」


 エセルが消えるようなか細い悲鳴で言う。

 すると、先ほどの書面を見ていたルークスが答えた。


「うーん……この書状、サインは本物なんだけどねぇ。

 ただ――正式なもの、とは言い難い。

 正式な文書なら、こんなふうに折りたたんで裸で渡されることはないからね」


 ルークスは書状を指先ではじき、にやりと笑う。


「付与魔法士の氏名が開示されたという通達もない。

 なら、このご令嬢方が本当に捕縛対象かどうか――

 騎士団としても、承諾しかねるな

 ――なぁ、カイル団長?」


「ああ、もっともだ。」


 カイルも分かっていたとうなづくと、腕の中のエセルをのぞき込む。


「エセル嬢――、

 君は、“捕縛されるような対象”の付与魔法士だと、認めるか?」


「い……いいえ……。違います。」


 エセルは反射的に答えていた。


 ――あれ?

 カイル様、私の名前がリストに入っていたの……誤解だって思ってくれた?


 エセルは心の中で、小さく首をかしげた。


 ――そうよ。そうに違いないわ。

 うん、間違いって思ってくれた。

 私も、ちゃんと否定したし……!


 エセルは、カイルの胸の中でようやく息を吐いた。

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