第一百五十二話 魔法学校の陸先生
――そして。
地上では。
陸虚が戻ってきたことに、皆がどよめく。
安堵と驚きが入り混じる中――
「へへっ」
リセルが、にやりと笑った。
「師匠~? 今のあなた、俺より境界低いですよね?」
一歩、近づく。
「じゃあ今回は――俺が師匠を大桶に放り込んで、鍛体してやりますよ」
「どんな感じか、ちゃんと体験してもらわないとですねぇ?」
どこか楽しそうな声音。
だが――
陸虚は何も言わず、ただ静かに微笑んで見つめる。
「……あ」
その視線に、リセルの笑顔が引きつる。
「い、いやその……全部、師匠のためっすよ?」
目を逸らしながら、言い訳を並べる。
「ほら、うちの流派って、そういう流れじゃないですか……」
「……」
陸虚は答えず、ただ皆を一度見渡し――
そして、ゆっくりと空を見上げた。
何かを考えるように。
やがて、ぽつりと呟く。
「……いや」
わずかに口元を上げる。
「今回は――魔法を学ぶのも、悪くないかもしれないな」
一週間後――
新入生で埋め尽くされた講堂は、朝から熱気に包まれていた。
「やっとだよな、陸先生の授業!」
「ずっと楽しみにしてたんだって!」
「ねぇねぇ、噂だとめっちゃ強いらしいよ!?」
あちこちで声が飛び交い、ざわめきは収まる気配がない。
中には――
「……陸先生、絶対イケメンだよね……」
「わかる……♡」
などと、頬を染める女子生徒の姿もあった。
――その頃。
講堂の扉の前に、陸虚は立っていた。
(……賑やかだな)
かつてとは違う。
今の自分は、ただの“普通人”。
それでも――
この空気は、どこか心地よかった。
小さく息を吐き、扉を押し開ける。
――ギィ。
その瞬間。
ざわついていた教室が、一斉に静まり返った。
無数の視線が、彼へと集まる。
陸虚はそのまま歩みを進め、講台の中央へ。
そして――
いつもの癖で、手を軽く上げる。
(……あ)
当然ながら、何も起きない。
一瞬の沈黙。
だが――
「……はは」
小さく笑い、肩をすくめる。
そのままチョークを手に取り、黒板へ向かう。
――カッ、カッ、カッ。
白い線が刻まれていく。
『望月凝神術』
五つの文字を書き終え、振り返る。
そして――
「僕は、陸虚だ」
静かに名乗る。
「今日は――精神力を鍛える秘法を教える」
完




