第一百四十五話 準備完了
翌日――
オレリス魔法学院では、再び始業式の日を迎えていた。
正門前には、多くの学生や保護者たちが集まり、朝から賑わいを見せている。
その中で、新入生たちがそわそわとしながら、先輩に声をかけていた。
「すみません……陸先生って、いつ会えるんですか?」
「ずっと楽しみにしてて……ぜひ教えを受けたくて……!」
その問いに、在籍している上級生の一人が、にやりと笑う。
「安心しなって」
軽く肩をすくめながら、こう言った。
「一年生なら全員、陸先生の“魔法基礎”の授業を受けられるからさ」
「しかもな――」
わざと間を置き、声を潜める。
「貴族でも滅多に触れられない“秘法”を教えてもらえるらしいぜ?」
「えっ……!?」
「ほ、本当ですか!?」
その一言で、空気が一気に爆発した。
期待と興奮が入り混じり、ざわめきは一層大きくなる。
もともと賑やかだった正門前は――
さらに熱気を帯び、収拾がつかないほどの騒ぎへと変わっていった。
一方その頃――
ティアリアの下、かつて封鎖されていた領域には、これまでにないほどの人影が集っていた。
各素材の傍らには、それぞれ“世界からの影響を遮断する”役目を担う強者たちが立っている。
黄金――6級火魔導師カミロと、5級火奥義魔導士スミルナ。
千年火参――6級赤龍ヴァルゼリナ。
千年雪蓮――6級氷龍アイゼル。
上品幽髄――5級闇エルフ、アラセリア。
南海朝霞の気――6級水・風魔導師メリー。
西域夕霞の光――6級土魔導師アモロン。
龍の髭と鳳の羽――6級木魔導師オグドンと、6級火魔導師シフ。
――まさに、大陸でも指折りの強者たちが一堂に会していた。
そして、それを可能にしたのは――
異世界より来た方士、陸虚。
陸虚は一人ひとりを見渡し、静かに頷く。
「……いい布陣だ」
そして視線をアラセリアへ向けた。
「一つだけ確認だ。今のところ、6級未満で素材の隔離を担当しているのはお前だけだ」
「もし厳しいようなら言え。こちらで負担を分散する」
その言葉を聞いた瞬間――
アラセリアの瞳が、きらきらと輝く。
「ダーリン……♡」
「大丈夫よ! たとえ命に代えてでも、やり遂げてみせるわ!」
そう言って勢いよく飛びつこうとする――が。
「やめろ」
陸虚は無表情のまま、ひょいと横に押しのけた。
その様子に、ヴァルゼリナがにやりと笑う。
「ふふん、陸虚よ。妾がただ食べておるだけではないと、しかと見せてやろうぞ」
「……姑母上、もう少し静かにしてもらえませんか」
アイゼルがため息混じりにツッコむ。
一方で――
「終わったらドワーフの里に来いよ。酒でもやろうぜ」
カミロとスミルナが気さくに声をかけ、
「今度は南海でゆっくり休むのもいいわよ? みんな連れてきても大歓迎だから」
メリーも穏やかに微笑む。
そして――
「そういえばな……」
アモロンがどこか意味深に口を開いた。
「この前お前がいなくなってから、妙なものが増えてな……特に――人形が一つ……」
最後に――
陸虚はオグドン校長とシフ教頭へ視線を向けた。
二人は何も語らず、ただ静かに頷く。
それだけで、十分だった。
陸虚は深く息を吸い――
「……リセル、点火だ」




