第一百四十四話 原因
陸虚はオグドン校長のもとを訪ねた。
その姿を見た校長は、わずかに目を細める。
「……ずいぶん疲れているな。そんなに急ぐ必要はない。問題があるなら、一緒に考えればいい」
穏やかな声だった。
だが陸虚は、静かに首を振る。
「校長――問題の当たりは、ついています」
「ほう?」
「今回の錬丹ですが……あなたの“功徳”を除いたすべての素材に、妙な違和感が出ています」
「性質そのものは、予測から外れていない。……つまり」
一瞬、間を置き――
「この世界そのものが、この錬丹術を“拒絶”している可能性が高い」
その言葉を聞いても、オグドン校長の表情は変わらなかった。
むしろ、わずかに口元が緩む。
「……だとしても、お前はすでに対策を思いついているのだろう?」
陸虚は頷く。
「ええ。功徳は実体を持たない――だからこそ、世界の影響を受けない」
「ならば、他の素材も一時的に“世界との繋がり”を遮断できれば……成功の可能性はあります」
「ただし――」
「一人では無理です。あなたの力が必要になります」
オグドン校長は腕を組み、静かに問い返した。
「……で、私は何をすればいい?」
陸虚は一枚の紙を差し出す。
「各素材の属性に対応できる人材が必要です。それぞれが素材の性質を維持し続ける」
「このメンバーを、集めてください」
校長は紙を受け取り、軽く目を通すと――
ふっと笑った。
「……なるほどな」
「どれも顔なじみばかりだ」
そして紙を軽く振る。
「任せておけ」
数日後――オレリスは、再び賑わいを取り戻していた。
和解を果たしたカミロとスミルナは、小花を興味深そうにじっと観察している。
その一方で、ヴァルゼリナは相変わらず豪快に食べながら、ちゃっかりアイゼルをこき使っていた。
少し離れた場所では、アモロン校長、メリー校長、そしてオグドン校長の三人が、何やら真剣に話し込んでいる。
さらにその横では――
「ダーリン!!」
アラセリアが勢いよく飛びつこうとするのを、
「ちょっと待ちなさい!」
シオンが全力で引き止めていた。
そんな光景を眺めながら、陸虚はふっと息をつく。
(まさか……異世界に来て、こんなにも多くの縁を得るとはな)
思わず、胸の奥がわずかに温かくなる。
そして、隣に立つノアへと視線を向けた。
「……旦那様」
ノアはどこか怯えたように、遠慮がちに口を開く。
「もしかして……もう、行ってしまわれるのですか……?」
その声は、小さく震えていた。
陸虚は一瞬だけ目を細め――
やさしく彼女の頭を撫でる。
「安心しろ」
穏やかな声で、そう告げた。
「本来の予定では、これが終わったら上界へ飛昇するつもりだった」
「だが――」
わずかに周囲へ視線を巡らせる。
「これだけ大切な者たちがいるのに、簡単に離れられるわけがないだろう」
そして、もう一度ノアを見る。
「僕は行かない」




