その手に引かれて
幼少期の記憶はほとんどない。最も鮮明に残っている記憶は、燃え盛る炎の中、自分の手を引く自分とあまり変わらない歳の男の子の姿だけだった。
『早く行くぞ!ここももうだめだ!』
彼はそう言って私の手を引いた。私は必死に彼に着いていった。それから私たちは森の中を走り続けた。
『大丈夫だ、絶対に助かる。諦めんな!』
彼が振り返りながらそう言い、私を励ましてくれたのを覚えている。そして、私たちは遠くへ、ただひたすらに遠くへと逃げた。
しかし、現実は無情だった。私たちが森を抜けてしばらく走ったところで、背後から大きな爆発音が聞こえた。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。燃えさかる業火の中で助けを求める声、怒号、下卑た笑い声、肉が刃物に切り裂けれる音。それらすべてが森の中で反響し合い、不協和音を奏でていた。私は幼いながらに悟った。
───この世は地獄なのだろう
何時間経ったのかわからない。気が付くと、辺りは静寂に包まれており、私と彼の姿しかなくなっていた。
『もう、誰もいないみたいだな』
彼はそう言って私を抱き上げた。その時初めて自分が泣いていることに気が付き、恥ずかしくて顔を隠そうとしたが、手が思うように動かなかった。
『みんな、みんな、いなくなっちゃった。これからどうしたらいいの?』
私は震えた声で尋ねた。
『そんなもん俺だってわかんねぇよ。だけど、俺たちは生き残った……。なら、二人で生きていくしかないだろ』
『でも、どこに行けば……。』
『そうだな、とりあえずは……。』
そう言って彼は何かを考えるように黙ってしまった。
『おい、お前の名前なんて言うんだ?俺はキースだ。お前は?』
『名前……。名前は……ない……です……。』
私は戸惑いながら答えた。
『そうか……。じゃあ、お前の名前はギルだ。ギル、お前は今日からギルだ。いいか、ギルだ。わかったか?』
彼は力強くそう言った。
『うん……わかった。……ありがとう、キース君。』
『おう、よろしくなギル。じゃあ、早速だがギル。まずはここから離れよう。』
『えっ?どこに行くの?まだ他にも生き残りがいるかもしれないよ』
『いや、もうダメだ。このままここにいてもいずれ捕まるだけだ。それに、俺もお前もこんな格好じゃすぐに見つかる。だからまずは服を手に入れて、その後ゆっくり考えればいいさ』
そう言って彼は私を優しく抱きしめると歩き始めた。
──────
「うーん……。」
窓から差し込む光に照らされながらギルは目を覚ました。
「また昔の夢を見たな……。」
ギルはベッドから身を起こすと、カーテンを開け外を眺めた。眼下に広がっているのは王都の街並みだ。
「あれから10年か……」
ギルはそう呟くと自室を出た。
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