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その日桜が舞い散りました。  作者: 咲香
第1章 出会い
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9.朝比奈

ひとしきり泣いた俺は、帰るために1階に降りることにした。

こんなに泣いたのはいつぶりだろう。

それも少女の前で。情けないにもほどがある。


桜は見送りをしようとしてくれたが、なんだか気まずかったので、断った。


「今日はありがとう。また来させてもらうよ」


図々しいかもしれないが、またここに来て桜と話したかった。それが本音だ。

桜に軽く頭を下げ、俺は階段を下りる。

再び鮮やかな1階の花屋が見えてきて、最初入ってきた扉の方へ向かう。


「……あの」


扉に手をかけようとした時、後ろから声がかかった。

声をかけてくる者など、1人しかいない、と思いつつ振り返る。

そこにはやはり、先程桜に負かされたあの店員がいた。

何か言わないと、という焦燥にかられて、俺は素早く言葉を発する。


「あ、その、すみません。見ず知らずの人間が長居しちゃって」


……完璧な嫌味になってしまった……。

すると店員は、少し困った顔をして、こう言った。


「…いえ。さっきはすみませんでした。私、ここの店の娘で、朝比奈あさひな 皐月さつきといいます。父とこの花屋を経営しています」


やはりこの子はこの店の娘だ。”父と”ということは、母はいないようだ。


「あの、桜との関係はよく知りませんけど、桜のこと、よろしくお願いします」


ずいぶん改まられて驚いた。

桜の殺し文句がよほど効いたのか。


――よろしくお願いしますと言われても、まだ知り合ったばかりだが。


そう言いたい気持ちもあったが、胸の中に留めておいた。


「……わかりました。また、来させていただいてもいいですか」


今の俺には、そう返すことしかできなかった。

店員、改め朝比奈 皐月は、ゆっくりと蓮に向かって礼をした。


「……はい、いつでも」


よし、と俺は心の中で思う。

これで桜に会いに来るたび尋問されることはなくなる。


「じゃあ、また」


俺はそう言い、今度こそ扉を開けた。


ふと、先程のことが頭によぎる。

ここまで皐月を素直にさせた桜の殺し文句は、一体なんだったのだろう。


「あ、えっと。皐月さん? さっきあの子にどんなメモを渡されたんですか?」


興味本位で聞いてみた。

そう言った途端、皐月はふっと微笑んだ。


「ああ、さっきの。これですよ」


{人と関わる時はいつでも見ず知らずでしょう? 私と皐月もね}


――なるほど。と俺は思った。

桜には、最初俺も助けられたように、人を説得させる力があるのではないか。

くすりと笑って俺も答える。


「はは、さすが。あの子普通の子とは違う能力でも持っているんですかね」


冗談交じりの会話。数時間前までは、皐月とここまで話し合えるとは思っていなかった。

本当に桜の力はすごい、と感じさせられた1日だ。


「そういえば」


俺はふと思いついて、皐月を見る。


「”皐月”の花言葉は、”協力を得られる”。皐月さんは、俺と桜さんの強い味方なのかもしれませんね」

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