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その日桜が舞い散りました。  作者: 咲香
第1章 出会い
7/29

7.桜と蓮

外観が綺麗なだけあって、中も整頓されており、桜が”座って”と指示した場所も、掃除が隅まで行き届いた部屋だった。

淡い色のカーテンや壁紙をバックに、白のテーブルが真ん中に添えられている。

その上には、小さなメモが束になっている。

ここは、桜の部屋なのだろうか。

しばらく眺めて待っていると、飲み物を片手に桜が戻ってきた。


「あ、ありがとう」


飲み物を受け取ってお礼を言う。

桜はふわりと微笑んで、腰を下ろした後、テーブルの上のメモに何かを書き始める。


{あなたのお名前は、なんというのですか?}


そうだ。俺の方は名乗っていなかった。相手の名前を聞いて満足してしまっていたらしい。


「俺は、藤崎 蓮。23歳の会社員……だった」


”だった”なんて、あまり言いたくはなかったが、ここで嘘をついてもどのみちばれる話だ。

その言葉でどこまで理解しているかは不明だが、少なくとも今はそうでないことはわかるだろう。


「君は、高校生なのか?」


そう言い、しばらく待っていると、桜はまたメモを渡してくる。


{雄弁。清らかな心。一方で”救ってください”という意味もある。あなたにぴったりのお名前ですね。

はい、私は高校3年生です}


高校生であることはだいたい想像はついていた。

そして、この子が言っているのは、花の一種であるはすのことだろう。

桜の時のように、多少花言葉は知っているつもりだったが、自分の名の花言葉など調べたことがなかった。

類似しすぎているそれに、少し驚いた。


「……ははっ。それで、俺は君に救われたというわけか。…ところで君はどうしてあんなところに?」


俺が話すと、またしばらく経ってメモを渡す。

屋上での出来事から思ってはいたが、これではまるで筆談ではないか。

彼女は、俺の腕を引っ張りながら、確かにあの透き通るような声を発したはずだ。

あれは、聞き間違いだったのか。


{たまたまです。本当に。あの辺りを散歩していたら、蓮さんが屋上に立とうとしているのが見えたので}


――たまたま? 偶然で俺を助けたというのか。

まだまだ桜のことがわからない。

とりあえず、1番気になることを聞いてみる。


「君さ、耳が聞こえないわけじゃないんだろう? それに、俺を助けてくれた時、君の声を聴いたんだ。あれはどういうことなんだ?」


その瞬間、桜の顔が曇った。

しまった。この質問は地雷だったか。

次に手元に渡ってきたメモの内容は、衝撃的なものだった。


{ごめんなさい。そのことについてはまだ言えない。ただ、声が出せないの}


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