5.花
朝日を浴びながら、忌々しい思い出の場所と変化してしまった桜並木の道を、一歩一歩進む。
昨日あの少女に渡されたメモに書いてあった住所は、ここを通らないと行くことができないのだ。
蓮は、手元にある小さなメモに目を落とす。
「ここに行けば、あの子がいるのか」
確証がないまま書いてある場所にどんどん足を進める。
迷いそうになりながらも、なんとかたどり着いた。
「――ここは、確か……」
淡い色の店につけられた大きな看板には、”フラワーショップ あさひな”と書かれていた。
蓮は、不安と少しの期待をこめ、その店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ!!」
店に入った途端、明るく快活な声が蓮を貫いた。
少々驚きながらも店内をぐるりと1周見渡す。
色とりどりに咲き誇った様々な種類の花、それらを引き立てる店内の雰囲気は、すべての人を虜にするほど鮮やかだった。
「なにかお探しですか?」
しばらく見惚れていると、先程の明るい声の店員が話しかけてきた。
背丈は俺より10センチほど小さく、高校生くらいの女性だ。アルバイト店員だろう。
「あ、いや。あの、ここに神崎 桜という少女はいませんか?」
そうだ。今日の目的は花ではなく、あの時の少女、神崎 桜なのだ。
「ああ、桜なら、今は少し出てますよ。もうすぐ帰ってくる頃だと思います」
「そ、そうですか……」
なんだ。あんなメモを渡してくるくらいだから、いつでもいると思ったのに。
蓮は少し残念な気持ちになり、出直すために扉の方に向かう。
「あ! 待って! あなた、桜とどういう関係ですか?」
帰ろうとした寸前に、店員に呼び止められた。
「どういうって……」
それは…と言おうとして言葉につまる。
どう説明すればいい。まさか、初対面で自殺しようとしていたところを助けられましたなんて、言えるわけがない。
「……あの?」
店員が不思議そうにこちらを見る。まずい。このまま押し黙っているわけにはいかない。
「じ、実は、彼女に」
そう言いかけた瞬間、ガチャ、と店の扉が開く音が響いた。
「……さ、桜。おかえり」
最高のタイミングだ。




