4.接触
「あ、あの、君はどこから来たんだ? …あ、その前に、助けてくれてありがとう」
あたふたしながら少女に話しかける。
しかし、少女は黙ったまま、蓮をにらんでいる。
「わ、悪かったよ。もう生きていることが嫌になったんだ」
弁明ともとれる言葉をつらつらと並べる。
何故俺はこんな高校生相手に謝っているんだ。勝手に助けたのはこいつだろう。
蓮は、先程から何も話さない目の前の少女に少しいらだつ。
「……おい。何か言ってくれよ」
ようやく顔をあげた少女は、小さなメモを取り出し、何かを書き始めた。
突然の行動に思考がついていかない蓮は、しばらく動けなかった。
少女は書き終えたメモを、まるで生き物を扱うかのように優しく切り離し、蓮につきつけた。
「読めってか……?」
不可解な行動に頭を傾けつつ、しぶしぶメモを受け取った。
その小さなメモには、こう書かれていた。
{あなたの1年を、私にください。}
「……は?」
少女が書いた言葉を思わず反芻し、唖然となる。
――1年? ください? 初対面で?
いろいろな考えが頭の中をめぐる。
「あのさあ、まず、君のこと何も知らないし…」
名前を、と言おうとしたところで、再びメモをつきつけられる。
{神崎 桜。18歳。東京都〇✖区△▲13-6-4}
――なんだこれは。
蓮は新たに渡されたメモに何度も目を通す。
桜? この少女は桜というのか。…ところで、この住所はどこのものだ。
まさかこの子の家ではないだろう。
必死に考えをめぐらせたが、答えがわからず、直接聞こうと頭をあげる。
「なあ、この住所って……!?」
またも驚いた。さっきまでここにいた少女がいない。逃げられたのか。
1番気になることが聞けず、蓮は少し落胆する。
数分の出来事だったはずなのに、とても長い時間のように感じた。
「……桜、か」
初め少女に抱いたイメージとあまりにも合いすぎている名前だ。
「確か、桜の花言葉は、純潔、心の美しさ。だ」
初対面で、意味が分からない言葉を残した彼女のことが妙に気になった。
それに、最初にあの透き通るような綺麗な声を発した後、彼女の口から言葉が出ることはなかった。
彼女は何者なのだろう。なぜ、助けてくれたのだろう。
保留とは言いたくはないが、死ぬのはあの不思議な少女のことを探ってからでも良い。
蓮はそう思い立ち、屋上をあとにした。




