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その日桜が舞い散りました。  作者: 咲香
第3章 異変
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26.小さな悲劇

「そんな、まさか……」


看護師さんが仕事に戻った後も、俺は打ちのめされたような気分で、しばらく混乱していた。

――父親ではなかったのか。

――一体彼女は誰からあんな……

――なぜ、実家に帰る必要があったのだ。

――あれは、嘘だったのだろうか。


「藤崎さん、大丈夫ですか?」


足先に向いていた視線を上に持ち上げると、皐月さんが心配そうに俺を見ていた。


「あ、ああ……ごめん。皐月さんは、これから帰るの」


「いえ、私はこれから買い物に行かないといけなくて。……あの、今日はまだ桜に会っていませんよね。もしよかったら、帰りに寄ってあげてください。今日は家にいると思います」


「ああ、そうする。時間割いてもらってありがとう」


「いいえ、このくらい大丈夫です。じゃあ、また」


皐月さんは俺に軽く頭を下げて、病院の出口に向かった。

それに続くように、俺も花屋に向かうことにした。


――今聞いた話が本当なら、桜は嘘をついていたことになる。

なぜ、そんな嘘をついたのだろうか。

何かまだ、俺の知らないことがあるような気がする。


ひたすら頭の中で考えながら歩く。


――桜のことがわからない。

写らない姿。

迫る”期限”と”会えなくなる大切な人”。

謎の処方薬。

父親の嘘。

不可解なあざ。

そして、声が出せないこと……。


これらが意味しているのは一体何なのだろう。

彼女は何も話してはくれない。

このまま何もできずに桜が苦しむのを見ているだけなのか。


桜と出会ってから幾度となく訪れたこの花屋の前で、茫然となる。

それでも彼女に会いたい気持ちから、扉に手をかけた。


――ガチャ。


――え?

鈍い音が扉に響いた。


「な……鍵!?」


扉の外を見ると、”close”の看板。

――まだ時刻は午後3時を指したところだ。こんな早く閉めるような店ではない。


――コンコン。

俺は不思議に思い、軽く叩いてみることにした。

するとしばらくして、扉が数センチ開いた。


「さ、桜? 俺だけど。こんな早く閉めたりして、どうしたん……」


そこまで言って、俺は絶句した。

わずかな隙間から見えた桜の姿は、ここ数日間で見てきたものではなかった。


――腕にひどいあざ。頭に巻かれた包帯。

ずいぶん変わり果てた姿だった。

なぜ……昨日見たときはなんともなかったはずだ。


俺だと気付いた桜は、驚いた顔ですぐに扉を閉めて、再び鍵をかけた。


「なんで……」


そこで俺は、小さな1つの仮説にたどり着いた。

あの謎の薬は、このひどい傷を隠すためのものだったのではないか……と。

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