25.語られた事実
あの日から俺は、桜にこれ以上危害が及ばないよう、何度も対策を練っていた。
仕事帰りに花屋に寄る頻度も、以前より少し多くした。
あれからというもの、桜にはなんの変化もなく、あざが増えているといった様子はなかった。
――しかし、油断などできるはずがない。
彼女が話してくれない以上、自分で真相を探るしかないのだ。
桜の父親はどんな人物であったか、現在家にいるのか、詳しく知りたかった。
「神崎さんて……神崎 麻里さん?」
そして今、俺と皐月さんは、とある病院に来ていた。
皐月さんいわく、ここはかつて桜の母親、”神崎 麻里”が入院していた場所らしい。
なぜこんなところにいるのかというと、神崎 麻里に関わっていた人物なら、桜の父親について何か知っているのではないかと思ったからだ。
――さすがに、1度くらいは神崎 麻里の見舞いに来ているだろう、と。
「以前に入院されていた方ですね。たくさんの患者さんから好かれていた方ですから、よく覚えています。私もたくさん話をさせてもらいました」
麻里とよく話していたという、1人の看護師さんが悲しそうに言った。
「麻里さんは、その、いつ頃……」
俺は看護師さんの顔色をうかがいながら、慎重に尋ねた。
どうやら桜の母親は、ここでは言わずと知れた人気者だったらしい。
「……2年前の、11月頃。ちょうど今くらいの時期でした。末期の癌で、麻里さんの娘さんも、本当に辛かったでしょうね」
――娘。桜のことだ。
その言葉を聞いた瞬間、皐月さんが食い入るように看護師さんに詰め寄った。
「あ、あの! 私、その娘の友達なんですけど。……その子の父親は、麻里さんの死に目に会わなかったんですか!?」
「ええ」
――即答だった。
暴力をふるうような外道が、来るはずない。
俺は看護師さんの口から父親の名が出なかった時点で、そう確信した。
――やはりこの人は、神崎家の事情を知っている。
「あの方は……神崎 拓海さんのことはよく知りません。けど、何度か麻里さんから聞いたことがあるんです。”あの人が桜のことを守ってくれている”って。”私がいなくなっても心配いらない”って……」
――あまりにも不憫な話に、涙が出そうになる。
そんな淡い期待を裏切られた麻里さんは、天国でどんな思いでいるのだろう。
「あの。その父親って、今はどうしているのか、ご存じないですよね?」
俺は、少しでも手がかりを得るために、彼女に聞いてみる。
すると看護師さんは、首を振って静かに答えた。
「亡くなりましたよ。去年の5月頃、事故で」




