24.募る不安
桜はずっと口を閉ざしたままだった。
俺の頭によぎるのは、悪いことばかり。
――まさか、この他にも……?
俺は半ば強引に桜の腕をまくった。
まだ小さいが、やはりいくつかあざができていた。
「……なんで」
彼女に一体何があったというのだ。
この状況で1番考えられる事実は、俺の中ではひとつしかない。
{なんでもない。少し、転んだだけ}
俺の腕を優しく振りほどいた桜は、そのままメモを取り、たったこれだけの内容を書いた。
「そんなはず、ないだろ。転んだだけで首元にこんなあざができるもんか。……言いにくいことなら、強要はしないけど、俺に相談してくれたら……」
己のバカさに後悔しながら、桜に必死に語り掛ける。
しかし、彼女は俺と目を合わせるどころか、下を向いたきり顔をあげようとしない。
「…………」
――およそ2か月ぶりに見る彼女は、どこか疲れているように見えた。
――今日の桜はどこか元気がない。
数分前の自分の思考をさかのぼる。
――全身に及んでいると推測される、痛々しいあざ。
……やはり、そうなのだろうか。
「……今日は疲れているみたいだし、帰ろう。送っていくよ」
何も言わない桜を見て、今日は帰した方がいいと思ったゆえの判断だった。
桜を送っている道中、俺は先程辿りついた考えで頭がいっぱいになっていた。
――桜は、実家に帰っていたと言っていた。
それが嘘でない限り、俺のくだらない推測は、皮肉にも的を射てしまう。
――実の父親による、暴力。
皐月さんの話では、桜の父親は、真摯な人ではなかったようだ。
仕事もろくにせず、家事はたまに帰ってくる桜に任せきり。
そんな社会の底辺の類に入るような男が、暴力をふるっていてもおかしくはないだろう。
――実家から帰ってきた後の疲れた顔。
――父親から受けた暴力による全身の打撲。
そんなことは考えたくはないが、それで全て辻褄が合ってしまう。
「……まさか、こんなことになるなんて」
これ以上事態が悪化しないためには、どうすべきだろうか。
何か対策を練らなければ。
ずっとそんなことを考えながら、隣を歩く桜と共にゆっくりと花屋へ帰って行った。




