23.火種
俺が桜と会えたのは、あの日から2か月経った後だった。
夏も終わり、寒さが目立つようになってきた。
その日彼女が指定してきた場所は、俺がかつて紹介したあの高台だった。
いつも人が集まる場所で待ち合わせしていたが、今回はその逆だ。
かすかに疑問を抱きつつも、俺はその場のベンチに腰掛けた。
――今日、彼女を問い詰めて何かわかるだろうか。
――今まで募ってきた不安を晴らせるだろうか。
そんなことを考えていると、急に肩をポン、と優しく叩かれた。
「あ……桜、久しぶり、だな」
およそ2か月ぶりに見る彼女は、どこか疲れているように見えた。
桜は、いつもの見慣れた紙とペンを出して俺の隣に座った。
{予定合わせられなくてごめんなさい。少し前から実家に帰っていて}
「いや。……こっちこそ、急に呼び出したりしてごめん」
久しぶりの会話は、ずいぶんぎこちないものだった。
こんなことをしていては埒があかないので、さっそく本題に入ることにした。
「少し、話があるんだ。……皐月さんから聞いたんだけど、最近カレンダーを見るたびに元気がないって。何かあったのか?」
――直球すぎただろうか。
桜との間に沈黙が流れたあと、彼女はゆっくりとペンを動かした。
彼女の動きといい、表情といい、今日の桜はどこか元気がない。
{時間がないの}
桜から渡されたメモの内容は、それだけだった。
「時間? 何の……?」
{ある人と、過ごせる時間。カレンダーを見るたびに、その日が近づいていることを思い知らされるの}
――ある人。一体誰のことだろう。
”その日”とはいつのことだ。
「それ、俺に話せる?」
彼女の悲しそうな顔を見ると、強く言えなくて、あえて低く出る。
そこまで悲しむということは、”ある人”は、友人か身内かもしれない。
{私の、大事な人。その人と一生会えなくなる時間が、近づいてる}
桜は一向に、その人が誰なのか、話そうとしなかった。
それに、一生ということは、もしかすると、この世から……。
――このまま何も聞かないでいてあげることが、今の桜にとってはいいのかもしれない。
そう思いかけていた時だった。
彼女がなにげなく髪を耳にかけた瞬間、見えてしまったのだ。
「さ、桜……! なんだよそれ、首元の」
俺がそう問い詰めると、桜はしまったとばかりに手で首元を覆い隠す。
顔はどんどん青ざめていく。
「一体、何があったんだよ……!」
俺は立ち上がって、今までにないほどの焦りと不安で桜を問い詰めた。
――桜の首元にあったのは、できて間もないように思える、痛々しいあざだった。




