21.皐月の見解
――やはり何かあるのだろうか。
皐月さんの言葉を聞いて、俺の中で不安が蓄積していく。
「……桜は、高校1年の時にここに来たんです。私が店番していた時で。今にも泣き出しそうな目で店に入ってきたことをよく覚えています。”ここで住み込みで働かせてください”って。いきなりのことで驚きました」
なぜ。彼女がそこまでしないといけない理由でもあるのか。
俺は桜の行動に疑問を抱く。
「どうしてって、話を聞いてみたんです。そうしたらあの子、父親とうまくいってなかったらしくて。仕事もまともにしない人で、桜は自分で働こうとしたんでしょうね。母親も同時期に亡くなったみたいで、辛かったんだと思います」
「……そんな」
自分が知らない桜の一面に驚く。
それと同時に、己の不甲斐なさを呪った。
「私、母親がいない点では桜と同じ環境だから、なんとなく気持ちわかるんです。同い年だし、この子を守ってあげなきゃ、なんて。おかしいですよね」
そう言うと皐月さんは、困ったようにはにかんだ。
「いや。桜も、皐月さんに感謝していると思う。……あ、それと」
そこまで言って、言葉につまる。
なんて聞けばいいのか、一瞬わからなくなってしまった。
「さ、桜とは、出かけたりする、んです、か」
俺は混乱して、おかしな口調で言葉を吐いてしまった。
「はい。時々しますよ。桜、藤崎さんに教えてもらった場所が大好きなんだって、出かけるときはよく連れて行ってもらってます」
皐月さんは、高校生らしい無邪気な笑顔を俺に向けた。
――なんだ、ちゃんと”神崎 桜”ではないか。
――きっと、楓と真麻の幻覚だ。
先程まで俺を覆っていた不安が、すうっと風のように消えていく。
「そ、そうだよ、な。皐月さん、ありがとう」
俺はすっかり安心して、彼女に笑顔を向けた。
しかし、そんな俺とは裏腹に、皐月さんの顔はまたしても曇っていた。
「藤崎さん。……桜と何かあったんですか?」
――ドキリ。
今日この鼓動を聞くのは2回目だ。心臓に悪い。
もとからの気質なのか、皐月さんは妙に鋭いところがある。
「い、いや……。桜って、人に認識されにくいとか、そんなわけ……」
俺は焦って言葉を濁してしまう。
「……。たぶん、藤崎さんで見えなかったんだと思います。桜、身長低めだし。角度的な問題とか。私と歩いていても気付かれないこと多いですよ」
――え?
俺が聞きたかったことをすらすらと述べた。
あれだけの言葉でここまで答える皐月さんの洞察力に度肝を抜かれた。
「そ、そうだよな。……ありがとう」
――皐月さんの話で安心した俺は、そこに隠されたものに、気付けなかった。




