20.虚実
楓が店を出てから30分ほど経った頃。
放心状態だった俺は、ようやくその店から出ることにした。
何がなんだかわからない。
楓も真麻も、どうしてしまったのだろう。
それともやはり俺がおかしいのだろうか。
いろんなことを考えているうちに、どうしても確かめたくなってしまった。
――神崎 桜。彼女は一体何者なのだろう。
――もしかすると、俺が知らない桜の事情があるのかもしれない。
衝動に駆られたまま、俺は気付けば花屋に向かっていた。
――わけのわからないやつと関わらないでくれ。
また、楓の忠告を無視してしまうことになる。
以前の事故の経験から、あいつの言うことはなるべく聞こうと思っていたが、これだけは確かめずにはいられない。
”ごめん”、と心の中で謝りながら、”あさひな”と書かれた店の前で足を止める。
いつものように扉を開き、中に入った。
「いらっしゃいませ」
その言葉を聞いた時、聞きなれた皐月さんの明るい声でないことは、すぐにわかった。
町中でよく見るような、切りそろえられた短い髪。
俺より少し高い身長。
見た目40代後半のその人は、きっと皐月さんの父親だろう。
「こんにちは。藤崎と言います。さく……皐月さん、いますか」
桜に直接聞こうと思ったが、なんだか顔を合わせづらく、皐月さんを呼んだ。
「ああ、藤崎さん。皐月と神崎さんからよく聞いています。今、呼んできますので」
顔つきから怖そうだと思っていたが、案外優しいその人に少し驚く。
どこか皐月さんに似ている雰囲気は、やはり親子なのだと感じさせられる。
「藤崎さん! こんにちは!」
”朝比奈さん”が中に入ってから、数分待っていると、後ろからいつもの明るい声が飛んできた。
桜に会いに何度か通いつめているうちに、皐月さんとはすっかり仲良くなってしまっている。
「こんにちは、皐月さん。今、時間あるかな。聞きたい事があって」
改まって言った俺を不思議に思ったのか、皐月さんは首をかしげている。
「話……? どうしたんですか?」
――桜は、何者なんだ。
なんて、そんなド直球に聞けるわけがない。
まずは皐月が知っている桜のことを聞くのが正解だろう。
そう思った俺は、皐月さんの目を見て、ゆっくりと質問を投げかけた。
「……桜、のことなんだけど。ここに来たのはいつ頃?」
――真麻と楓の疑いを晴らすためには、”桜”という存在を証明させる必要がある。
皐月さんや朝比奈さんとの関わりを聞き出せれば、それが可能かもしれない、そう考えたのだ。
すると皐月さんは、顔を曇らせてこう言った。
「……そういえば、藤崎さんに話してなかったですね。桜の事情」




