18.隠し事
あれっきり、俺たち3人の会話は途切れてしまった。
完全に石化してしまった俺は、しばらく動くことができなかった。
――どうして。
――あの時桜は隣で笑っていたはずだ。
この2人にだけ彼女が見えないなんてことはありえない。
現に、皐月さんは桜と話していたではないか。
それとも、仕事のしすぎでこの2人がおかしくなっているのだろうか。
「……ごめん、私、先帰るね」
沈黙を破ったのは、またしても真麻だった。
さすがにこの空気には耐えかねたのか。
「……ああ」
俺はなんとか言葉を絞り出した。
そして真麻は、自分の分の金額を財布から出すと、ゆっくり席を立った。
「……今日はごめんね蓮。また今度」
そう言ったあと真麻は店の扉を開けて、もう一度俺の方を見てから、出て行った。
なんだか爆弾を落とし、まんまと逃げられた気分だった。
ふと、まだ帰る素振りを見せないもう1人に目をやる。
「……楓、お前はいいのか」
真麻と一緒に帰ると思っていたが、そんなつもりはないようだった。
「俺は、お前に言っておきたいことがある」
楓は俺に向かって、今までで1番と言っていいほどの重い声を発した。
心臓をえぐるような、悲しい顔をしながら。
こんな楓は見たことがない。
「蓮。本当に大丈夫なのか。お前、もしかしてあの事故から気が狂ったんじゃないだろうな」
――何を言い出すのかと思えば。
またこいつの見当違いな心配だった。少し拍子抜けしてしまう。
「だから……言っただろう? 今はちゃんと仕事も探してるし、生活費だって自分でなんとかやりくりできてるって」
俺は、あきれるように言い放った。
「そのことじゃねえよ」
楓の重い声に再び驚く。
悲しさに満ち溢れていた表情は消え、怒りをあらわにしていた。
そんな楓が少し怖くなる。
「お前、俺と真麻に何か隠し事してるんだろう。俺にはわかる」
――ドキリ。
楓の思わぬ言葉に、胸の音と共に俺は焦った。
こいつは昔から、俺が隠し事をする時の顔がわかるらしい。
小学生の頃に言われたことがある。
――楓にだけは、隠し事などできないのかもしれない。
――桜のことを言うべきだろうか。
「おい、れ……」
「助けられたんだよ」
楓が言いかけた言葉をさえぎって言った。
「……え?」
「俺は会社を辞めてからずっと、生きている意味が見いだせなくて、それで自殺を図った。その時に助けてくれた子がいるんだよ。真麻がさっき言ってた花屋でバイトしてるんだ。きっと、その子と一緒にいるところを見られたのかもしれない」
俺は、今まで保ってきた均衡が崩れたように、口から言葉を一気にはいた。
言い終わってゆっくり顔をあげる。
そこにいたのは、今度は真っ青な顔をした楓だった。




