17.真麻の疑い
「真麻っ!!!」
突然、今まで黙っていた楓が立ち上がって叫んだ。
周りの客の目線が、一気に俺たち3人に集まる。
真麻は未だにうつむいたままだ。
「……楓。いいから」
俺はこの場をなんとか落ち着けようと、楓をなだめる。
楓はバツの悪そうな顔をして、ゆっくりと席についた。
「……真麻。どういうことだ。何が言いたい」
俺は内心焦っていることを2人に悟られないように、必死に平静を装った。
――1人で笑って歩くことも、よくあることなの?
俺は先程の真麻の言葉を反芻する。
今までの自分の行動を思い返してみたが、そんな酔っぱらいのバカみたいなことをした覚えは1度もない。
1人で笑いながら歩くなど、ただの変人ではないか。
もう一度真麻の方を見ると、彼女はうつむくのを辞め、顔を上げて楓の方を見ていた。
「……楓。もう、黙っていても仕方ないよね」
なんだか深刻そうな顔をした真麻は、そう楓に言い放ち、俺の方を向いた。
「……ああ……」
そんな真麻に、しぶしぶ了解した素振りを見せた楓は、彼女と同様に俺の方に向き直る。
「……ちょ、ちょっと待ってくれよ2人とも。俺がそんな変人みたいなことをすると思うか? たとえ笑いながら歩いていたとしても、誰かと一緒だったとか……」
俺は、あまりにも辛そうな顔をしている2人を目にして、言葉につまってしまった。
――なぜ。桜と歩いていたところを見られていたのか。
そうだとしたら、あの2人で会った日のことだ。
いや、それでも”1人で”というのはおかしいだろう。
真麻の見た光景が見間違いであったという、わずかな希望を抱いていた俺の心は、次の真麻の言葉にいともたやすく打ち砕かれた。
「蓮、”桜”って、時々言いながら歩いてた。最初あの桜の木のことかと思ったんだけど、なんだか人を呼ぶような感じで……」
――俺はそのとき、視界が暗転したような気がした。




