13.花と会話
大通りから数分歩いたところには、あまり人が来ない高台がある。
にぎわう東京の街並みから外れて、全体の景色を見渡せる場所だ。
静かで、その地の周辺は、美しい花たちで埋め尽くされている。
まるで皐月さんの店を思い出させるほどだ。
いろいろなところを案内しながら歩き回った俺と桜は、そこで休憩することにした。
近くにあったベンチに共に腰を下ろす。
その瞬間、ずっと掴んでくれていた右腕から、桜の手が離れる。
少し名残惜しいと思ってしまったことは、心の中にしまっておいた。
「……この高台からの景色、いろんなところを見渡せて、結構気に入ってるんだ。心を落ち着けるには最適だな」
そう言って、自らもここによく来ていたことを思い出す。
静寂につつまれながら全身をかけぬける風が、なによりも気持ちよかった。
{ここ、本当に落ち着く。まるで東京じゃないみたいです}
そのメモを見た俺は、桜をここに連れてきてよかった、と思った。
「花がたくさん咲いていて、ほんと、皐月さんの花屋みたいなところだよ」
{蓮くんは、花が好きなんですか}
――花。突然投げかけられた質問に、蓮は少し迷う。
嫌いというのなら、花言葉など覚えたりはしないし、好きだといえば好きなのかもしれない。
「……ああ。好き、かな」
花というものは、人の手入れや自然の力がなければ、いつしか枯れてしまう。
いくら道端で綺麗に咲き誇っていても、誰にも目をつけてもらえないものは、儚く散る。
――人間も同じだ。誰かに支えられて、ようやく生きている。
今、”桜”という存在こそが、”俺”という花の、生きながらえる術なのかもしれない。
{私も好き。季節が変わるごとに枯れてしまうけど、また1年後には生まれ変わったように咲き誇るもの}
全て、とまではいかないが、どこか似通った考えをしていた桜に、つい笑ってしまう。
{え……、何か、おかしいかな?}
笑った俺に焦ったのか、いつもの口調も忘れて慌ててメモを書いたらしい。
そんな桜にますます笑いがこみあげてきた。
手で口を押えながら笑っていたが、ついに声が出てしまった。
「はははっ。桜が珍しく焦ってたから。思わず」
理由を聞いて安心したのか、桜も一緒に微笑んだ。
そのあとも、お互いに笑いあって、しばらく2人で話した。
気が付けば、辺りはもう日が沈みかかって、真っ赤な夕焼けが出始めていた。
時刻は午後6時を過ぎた頃だろう。
時間を忘れてこんなに笑いあうなど、久しぶりだった。
まだ一緒にいたいという気持ちはあったが、この華奢な女子高生をこれ以上連れまわすわけにはいかない。
俺はベンチからゆっくりと立って、桜に言った。
「そろそろ帰ろうか。皐月さんの店まで送るよ」




