12.太陽の下の君
外に出てしまうと、メモを書く桜とは少し話しづらくはなるが、2人で並んで歩くのは初めてだ。
4か月ほど前に満開だった桜は全て緑の葉に変わり、花壇には、所々夏の花であるアジサイが顔を出している。
太陽のギラギラとした光がまぶしい。
春の景色とはまた違った風情があるこの大通りが、俺はなんとなく好きだった。
「ここが、いつも春になると桜が満開になる通りなんだ。俺もよくここを通ってる。花屋に行くときもだ」
ゆっくりと歩きながら案内していく。
言葉はないが、俺が説明するたび桜は、うんうんと頷き笑顔で答えてくれる。
ふと、道の端に設置された看板に目が行く。
そこには、”〇月✖日、午後3時頃発生した歩行者と車両の接触事故を見かけた方はご連絡ください。”と書かれていた。
自分の事故のものではないが、妙に胸がざわついた。
急に足を止めた蓮を不思議に思ったのか、桜はメモを取り出す。
{この看板、気になりますか?}
桜からメモを渡されて、はっと我に返る。
「あ、ああ。少し。ごめん、大丈夫」
必死に動揺を隠したが、彼女には悟られているだろうか。
桜からはそれ以上聞かれなかったが、こんな時にまで思い出してしまう自分に腹が立った。
「……この先15分くらい歩いたら、高台にでるんだ」
現実から目をそむけるように、再び足を進めた。
すると、急に先程までなかった違和感に気付く。
感覚こそなかったが、桜が俺の右腕を優しくつかんでいた。
「ど……どうした?」
驚きながらそう聞くと、いつの間に書いたのか、俺の手にメモを渡す。
{右側、視界悪くて歩きにくいと危ないから}
……ああ。彼女にはかなわない。
少し照れながら腕をつかむ桜を見て、俺はそう思った。
先程考えていたことは全て悟られていた。その上、動かせる左腕を邪魔しないよう、右腕を掴んでくれている。
確かに片目では視界が悪いし、歩きづらいのだ。
全部を知っている彼女だからこその、気遣いなのかもしれない。
「……ありがとう。助かる」
俺は彼女の気遣いに甘えることにした。
いくら自分が高潔な人間でいようとしても、寛容すぎる彼女の前では崩れ去る。
――出会ってから、まだたったの1か月。
それなのにこんなに”神崎 桜”という人間に心惹かれてしまっていることは、もう気付いていた。
そんなことを考えながら、俺と桜は高台に向かい、一歩一歩、歩いていった。




