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灰巣の子  作者: 鳴沢京子


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15/19

第15話 また明日



翌朝、不合格者の召集がどう行われたのか、僕は結局、何も見なかった。ただ、朝食の席に、また何人か顔が減っていた。


誰も、それについて話さなかった。話さないことが、この場所での暗黙の作法になりつつあった。


「今日は、休息日だそうだ」


隣で椀を受け取りながら、聞き覚えのない声がした。振り向くと、同じくらいの年頃の男の子が、少し困ったような笑みを浮かべていた。


「昨日の模擬戦、そっちの組も通ったんだろ。俺たちも、ぎりぎり通った」


「そうなのか」


「ダンっていう。よろしく」


差し出された手を、僕は少し戸惑いながら握った。ここに来てから、自分から名乗ってくれる相手は、あまりいなかった。


「ノエル。こっちはリナ」


「知ってる。二人一組で連携して勝った組だろ。噂になってた」


隣に座っていた小柄な女の子が、ダンの肩を軽く小突いた。


「勝手に仲良くなんな。私はエマ」


「よろしく」


「あんたたちの戦い方、ちょっと変わってたって、見てた奴が言ってたよ。片方が急に止まって、隙を作るやつ」


見られていたのか、と僕は少し落ち着かない気分になった。


「たまたま、うまくいっただけ」


「たまたまでも、通れば同じ。昨日、それで消えた組もあったんだから」


エマの言い方は軽かったけれど、その内容は軽くなかった。消えた組、という言葉が、食堂の空気に馴染みすぎていることに、僕は改めて怖さを感じた。


「ダンとエマは、同じ村の出身なのか」


「いや、違う村。でも、来た時期が近くて、最初の課程からずっと一緒だった」


「じゃあ、僕らと似たようなものか」


「かもな」


ダンが笑うと、少しだけ、この場所らしくない緩んだ空気が生まれた。


そんな些細なやり取りに、こんなに安心する日が来るとは思わなかった。灰巣に来てから、誰かの笑顔を見て自分も緩む、という感覚を、僕はほとんど忘れかけていた。


休息日らしく、日差しはいつもより柔らかく感じられた。中庭の隅、訓練の合間には座ることもなかった場所に、四人並んで腰を下ろすと、少しだけ、村にいた頃の午後を思い出した。


「ダン、家族は」


聞いてから、失礼な質問だったかもしれないと思った。それでも、ダンは特に気にする様子もなく答えた。


「弟が二人いた。一人は、村を出るときに、はぐれた」


言葉の途中、ダンの表情がほんの一瞬だけ揺れた。それ以上は、聞かないほうがいい話なのだと分かった。


「一人は?」


「別枠、ってやつに入ってる。まだ小さいから」


その言葉に、僕は思わずマティのことを思い出した。


「僕にも、似たような子がいる。年下の子で、まだあっちにいる」


「そうか。じゃあ、お互い様だな」


短いやり取りだったけれど、それだけで、何か通じるものがある気がした。


「休息日、何するんだ」


「特に何も。ただ、体を休ませていいってだけ。こういう日、俺は結構好きだ」


「好き?」


「何も考えなくていい時間って、意外と貴重だろ」


ダンの言葉に、僕は少し驚いた。ここに来てから、何も考えない時間なんて、一度もなかった気がした。


その日の午後、僕らは四人で、訓練場の隅に座って過ごした。ダンは意外と口数が多く、エマはそれに軽口で応じる。リナは相変わらず口数が少なかったけれど、時折、話に加わることもあった。


「そういえば、模擬戦の時、アルトの組見たか」


ダンが思い出したように言った。


「見た。ほとんど反撃もさせてなかった」


「だよな。同期の中でも、あいつだけ別枠って感じがする」


「別枠、って言葉、今日はもう聞き飽きた」


エマが茶化すように言うと、ダンが小さく笑った。深刻になりすぎないように、誰かが意識して空気を変えているような気がした。それが、この場所で生き延びるための知恵なのかもしれなかった。


「リナは、あんまり喋らないんだな」


「別に。喋ることがないだけ」


「もったいない。せっかく生き残ったんだから、喋れるうちに喋っとけよ」


軽い調子で言われた言葉だったけれど、生き残った、という表現には、どこか重みがあった。ここでは、それが冗談で済ませられる範囲の言葉なのだと、改めて思い知らされた。


「エマは、なんでそんなに前向きなんだ」


僕が聞くと、エマは肩をすくめた。


「前向きなんじゃなくて、暗い顔してても状況が変わらないから、せめて明るくしてるだけ。あんたも、たまには笑えよ」


「笑えるほど、余裕ない」


「余裕がないときこそ、笑っとくもんだよ。癖にしておかないと、いざという時に出てこない」


妙に説得力のある言葉だった。エマがどんな経験をしてきたのか、詳しくは知らなかったけれど、その言葉の裏には、彼女なりの理由があるのだろうと感じた。


夕方、四人で別れる時、ダンが言った。


「また明日な」


「うん、また明日」


当たり前のようにそう答えたけれど、この場所で交わす「また明日」が、どれだけ確かなものなのか、僕にはまだ分からなかった。


「リナも、また明日な」


「……うん」


いつもならそっけなく返すはずのリナが、少しだけ間を置いてから答えた。彼女なりに、この四人の時間に、何かを感じ始めているのかもしれなかった。


夜、寝台に横になりながら、僕は今日一日を振り返った。ダンとエマの存在は、この場所での毎日に、少しだけ違う色を加えてくれた気がした。それが嬉しくもあり、同時に、失うことへの怖さも、静かに増えていくのを感じた。


誰かと親しくなるたびに、失うかもしれないという不安が、影のようについてくる。ここに来る前は、そんなことを考えたこともなかった。それも、この場所が僕に教え始めていることの一つなのかもしれなかった。


マティのことも、また少し考えた。あの子にも、いつか誰かこんな友達ができるのだろうか。そうであってほしいと、僕は願った。同時に、その願いがどこか虚しく響くことにも、気づかないふりをした。

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