第2章:辺境のレルナ、目覚める記憶と奇跡の種
王都を追放されてから数週間。私は、なけなしの金で乗り合い馬車を乗り継ぎ、アルドレア王国の最果て、辺境と呼ばれる土地にたどり着いた。
レルナ村。それが、私の新しい住処となった場所の名前だった。痩せた土地、吹きさらしの風、そして貧しさゆえに覇気のない村人たち。王都の華やかさとは何もかもが正反対の光景が広がっていた。
村長のエリオット氏は、よそ者の私に訝しげな目を向けながらも、空いていた古い小屋を貸してくれた。村の青年カイルは、特に私への警戒心が強く、何かと監視するような視線を向けてくる。まあ、当然だろう。見慣れない身なりの女が一人で流れ着いたのだから。
「あんた、本当に貴族だったのか? 随分とたくましいな」
薪を割っている私を見て、カイルが呆れたように言った。
「ええ。ですが、生きるためにはこうするしかありませんから」
侯爵令嬢としての私は死んだ。今はただのアメリアだ。幸い、幼い頃からあらゆる教養を叩き込まれてきた。その中には、護身術や最低限のサバイバルの知識も含まれていた。それが今、役に立っている。
日中は村の畑仕事を手伝い、夜は借りた小屋でこれからのことを考える。そんな日々が続いていたある日のこと。
私は食料を調達しようと、村の裏手に広がる森へ足を踏み入れた。その森の奥深く、木漏れ日が差し込む小さな空間で、私は“それ”を見つけた。
地面に落ちていた、一つの種。
それは、ありふれた種ではなかった。まるで小さな宝石のように、かすかな青い光を放っている。何かに強く引かれるように、私はその種を拾い上げた。
その瞬間だった。
――ドクンッ!
心臓が大きく脈打ち、脳内に膨大な情報が流れ込んできた。
『……これは、リグニン、セルロース、ヘミセルロースの組成が……違う? この土壌の窒素・リン・カリウムのバランスでは、通常の作物は育ちにくい。でも、この種なら……? 待って、この気候、この土壌、この種……可能性がある!』
農業、土壌学、植物遺伝子工学……。それは、アメリア・リュミエール・グランフォードが知るはずのない知識。
そうだ、思い出した。
私は、かつて「日本」という国で、農業研究員として生きていた。これは、私の前世の記憶。どうやら、この世界に転生していたらしい。今まで忘れていたのは、侯爵令嬢としての人生に忙殺されていたからだろうか。
悪役令嬢として断罪され、追放された。それは不幸な出来事だった。しかし、そのおかげで私は本当の自分を取り戻した。
この痩せた土地、貧しい村、そして手の中にある謎の種。
絶望的な状況に見えるかもしれない。だが、前世の知識を持つ私にとって、ここは可能性に満ちたフロンティアにしか見えなかった。
「ふふっ……ふふふふっ!」
思わず笑いがこみ上げてくる。
「面白い。面白くなってきましたわ」
私は青く光る種を、宝物のように固く握りしめた。
この一つの種が、私の、そしてこの世界の運命を変えることになる。
この時の私は、まだその本当の意味を理解していなかった。




