第12章:果実が結んだ新しい世界
ヴェリーナ・ノートが世界の基軸通貨となってから、十年の歳月が流れた。
世界は、大きく様変わりした。
かつてのレルナ村は、今や「ヴェリーナ・シティ」と呼ばれる美しい国際都市へと変貌を遂げている。VIDAの本部を中心に、研究施設、金融街、多様な人種が集う居住区が広がり、街には活気が満ち溢れていた。
私は、VIDAの総裁として、この街から世界を見守っていた。
ヴェリーナの栽培技術は、VIDAを通して世界中の食糧難に苦しむ地域へともたらされた。気候や土壌に合わせて品種改良された「サブ・ヴェリーナ」が各地で栽培され、多くの人々を飢えから救った。
農業が一大産業として再評価されたことで、人々は大地を敬い、自然環境を大切にするようになった。無計画な開発は減り、緑豊かな土地が増えていった。
ヴェリーナ・ノートという安定した通貨は、国家間の無用な争いを減らした。経済的な結びつきが、軍事的な対立よりも遥かに有益であることを、誰もが理解したからだ。
私は、世界の「食」と「通貨」、そして「思想」を、たった一つの果実によって変えたのだ。
今日は、ヴェリーナ・シティの建都十周年を祝う記念式典が開かれる日だ。
式典会場の壇上から見渡すと、そこには懐かしい顔ぶれがあった。
今やヴェリーナ・シティの市長となったカイル。彼は立派な指導者として、市民から厚い信頼を得ている。
生涯の盟友であるレミア帝国の女帝クラウディア。彼女の賢明な統治と協力なくして、今の世界はなかっただろう。
そして、私を温かく受け入れてくれたエリオット村長の息子や孫、ヴェリーナ開発局で働いていた女性たち、ヴェリーナによって人生を救われた世界中の人々……。
人種も国境も超えた“共栄の輪”が、私の目の前に広がっていた。
あの雪辱を誓った追放の日から、長い道のりだった。だが、私のしてきたことは、復讐などという小さなものではなかったのかもしれない。
ただ、目の前の土を耕し、種を蒔き、人々と分かち合ってきた。その結果が、この美しい世界なのだ。
式典が終わると、カイルが私のそばにやってきた。彼は少し照れたように笑う。
「アメリアさん、すごいよな。あんたがこの村に来た日には、こんな未来、誰も想像できなかった」
「ふふ、私にも想像できませんでしたわ。でも、あなたたちが信じてついてきてくれたからです」
「違うよ。俺たちが信じたのは、アメリアさんと、ヴェリーナがくれる未来だったんだ」
彼の言葉が、胸に温かく響いた。
私の人生は、一度終わった。悪役令嬢として断罪され、すべてを失った。
しかし、一つの果実が、私に第二の人生と、かけがえのない仲間たち、そしてこの素晴らしい世界を与えてくれた。
夕日が、金紅色に輝くヴェリーナの果実のように、この平和な都市を染めていく。
私は、この上ない幸福感に包まれながら、その美しい光景を静かに見つめていた。私の物語は、ここで一つの結実を迎えたのだ。




