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アベルは机の上の書類を手に取ると、勝手知ったる様子で目を通し始めた。
クロウも、それを止めようとはしない。
当たり前のような空気だった。
言葉を交わさなくても、互いの動きが分かっている。
長い時間を共にしてきた者同士の距離感。
シンとレンは、その様子を黙って見つめていた。
(……俺たちと、少し似てる)
レンが小さく思う。
(いや、違うな)
シンも同じ結論に至る。
二人の絆は、世界が敵だったから生まれたものだ。
信じられるのは、お互いだけ。
背中を預けられる相手も、隣に立てる存在も、一人しかいなかった。
だから、二人の世界は狭く、閉じている。
それで十分だった。
それ以外を必要としたことはない。
けれど。
クロウとアベルは違う。
互いを深く信頼している。
それでも、その関係は二人だけで完結していない。
周囲の仲間たちへ向けて、開かれている。
多くの人間を受け入れながら、それでも揺らがない強さがあった。
シンとレンは、そんな在り方を知らなかった。
「あはは」
クロウが、のんびり笑う。
「アベル、もう少し優しく迎えてあげてよぉ」
「十分優しいだろ」
「そうかなぁ?」
軽口を交わす二人。
その自然さが、どこか不思議だった。
やがて、クロウが双子へ向き直る。
「改めて、よろしくねぇ」
穏やかな笑みを浮かべる。
「シンくん、レンくん」
「ここには、僕とアベルだけじゃなくて、他にもたくさん仲間がいる」
「みんな、騒がしいけど良い奴らばっかりだよ」
少しだけ首を傾げる。
「だから、無理に急がなくていい」
「信じられるようになるまで、ゆっくりでいいからさ」
静かな声だった。
「ここを、自分たちの居場所の一つにしてくれたら嬉しいなぁ」
シンとレンは答えない。
まだ、警戒心が消えたわけではない。
大人は嘘をつく。
その傷は、簡単には消えない。
それでも。
この四日間、閉じ込められることはなかった。
無理に従わされることもなかった。
条件も、すべて受け入れられた。
理解はできない。
けれど。
少なくとも、今この瞬間、自分たちは道具として扱われてはいない。
シンとレンは、互いに視線を交わす。
言葉はいらなかった。
まだ信じない。
まだ油断もしない。
それでも――。
ほんの僅かに。
生まれて初めて。
「二人だけじゃなくても、生きていける場所があるのかもしれない」
そんな考えが、胸の奥に小さな灯火のように宿り始めていた。




