1 クロウ視点
「……ごほっ、ごほっ……! う、く……っ」
「レン、大丈夫か……? 息、しろ、ゆっくり……っ」
冷たい雨の降る薄暗い路地裏。
そこに、まるで世界から見捨てられたようにうずくまる、小さな二つの命があった。
泥まみれのボロ布のような服。
燃えるような高熱にうなされる男の子と、その背中を凍える手で必死にさする男の子。
まだほんの子供だというのに、その瞳には、この世界のすべての悪意を煮詰めたような、凄まじい敵意と警戒が宿っていた。
(あーあ……ひどい風邪。このままじゃ死んじゃうよぉ)
僕は頭の大きなフードを少し上げ、二人の前にゆっくりと屈み込んだ。
何かしようと、ただそっと、温かい手を差し伸べた、その時だった。
パシィィン!!!
乾いた音が路地裏に響く。
僕の手は、激しく払いのけられた。
「……触るな!!」
「なんのつもりだ……! またそうやって優しいフリして、俺たちを利用するんだろ!」
「……大人はみんな嘘つきだ。優しい顔して近づいて、最後は全部奪っていく」
二人が並んだまま、同じ鋭さで僕を睨みつける。
その言葉の端々から、彼らがこれまで“優しい大人”にどれだけ利用され、傷つけられてきたのかが痛いほど伝わってきた。
(利用、か……。そっか、そんなことばっかりだったんだね)
僕は払いのけられた手のひらを見つめ、小さく息を吐いた。
怒る気なんて、これっぽっちも起きない。
ただ、この冷たい雨の中でなお、世界に牙を剥き続ける二人が、ひどく愛おしく、切なかった。
「利用なんてしないよぉ」
そう言っても、
「騙されるかよ!」
「信じるくらいなら、ここで死んだ方がマシだ!」
返ってくるのは、命がけの拒絶だけだった。
信じた先に裏切りしかなかった子供たちの、最後の防衛本能。
けれど、限界はすぐに訪れる。
「……ごほっ……!」
レンの身体が大きく揺れ、そのまま泥の中へ崩れ落ちた。
「レン!」
隣にいたもう一人――シンも、咄嗟に支えようとする。
けれど、自分自身も限界だった。
最後まで僕を睨みつけながら、その身体はゆっくりと泥水の上へ倒れ込む。
最期の瞬間まで、絶対に信じないと誓うように。
「……はぁ。頑固だなぁ、君たちは」
僕は深くため息をつき、濡れるのも構わずパーカーを脱いで二人へ被せた。
そして、壊れ物を扱うように、そっと抱き上げる。
どちらか片方じゃない。
二人を、同じように。
もう二度と、冷たい地面に落とさないように。
腕の中の二人は、驚くほど軽かった。
どれだけ牙を剥こうとも、ただの傷だらけの迷子だ。
「よしよし、お家に帰ろうねぇ」




