2 クロウ視点
「おい、ボスが帰ってきたぞ!」
「またフラフラ出歩いて……って、うわ、なんだその泥団子!?」
アジトの重い扉を開けると、リビングにいた仲間たちが一斉にこちらを振り返った。
そして、僕の腕の中を見た瞬間、揃って目を丸くする。
「あはは、ただいまー。ちょっと迷子を拾っちゃってさ。すごく酷い風邪引いてるから、あったかい部屋と、着替えと、お薬お願いできる?」
僕がのんびり言うと、リビングの空気が一気に慌ただしくなった。
「はぁ!? 迷子って、完全にスラムのガキじゃねぇか! また拾ってきやがって……!」
呆れながら頭を抱えるのは、医療や情報収集を担当している仲間だ。
文句を言いながらも、すぐに救急箱と清潔なリネンを取りに走っていく。
「ちょっと待って、その子たち、気絶してるのに『殺す』とか『信じない』とか唸ってるんだけど!? どんだけ警戒心強いのよ!」
前線を任されている女性メンバーが、面白そうに目を輝かせた。
「あはは、元気があっていいじゃん。みんな手伝ってー」
僕は笑いながら靴を脱ぐ。
「お風呂の準備お願いねぇ。着替えは刺激しないように僕がやるからさ」
「まったく……ウチのボスはこれだから……」
仲間たちは口々に文句を言いながらも、驚くほど素早く動いていく。
誰一人として、追い出そうとはしない。
僕が連れてきた傷だらけの野良猫たちを、当然のように受け入れてくれる。
それが、僕の自慢の家族だった。
***
それから数時間後。
二人を寝かせた部屋の前で、僕は静かに立ち止まっていた。
部屋の中から、ドタバタと慌ただしい物音が聞こえてくる。
(あ、起きたな。ちょうどよかった)
そう思い、僕はお盆を持ったまま扉を開けた。
「あ、起きた? ちょうどよかった、あったかいスープを――」
言葉が途中で止まる。
ベッドから飛び降り、部屋の隅へ移動した双子が、並んで拳を握り締めていた。
今にも飛びかかってきそうなほど低い姿勢。
「近寄るな……!」
「騙されないぞ! 優しいフリして閉じ込めて、利用する気なんだろ!」
昨日まで高熱で死にかけていたとは思えない。
野良犬みたいな生命力だ。
(あはは、本当に可愛いなぁ)
僕は苦笑しながら、お盆を床へ置いた。
両手を上げ、無抵抗を示す。
「君たちが僕を信じられないのは、当たり前だよねぇ」
その一言だけ残す。
余計なことは言わない。
無理やり近づいたところで、警戒を深めるだけだから。
猫を懐かせたいなら、待つのが一番。
僕は扉の鍵をかけず、そのまま部屋を後にした。
***
――けれど、その夜。
せっかくの作戦を台無しにする、不粋なネズミたちが現れた。
どこかの組織の始末屋だ。
僕は彼らを、双子の部屋から一番遠い広間で迎え撃った。
できるだけ静かに。
できるだけ素早く。
骨が折れる音。
壁に叩きつけられる音。
少しだけ響いてしまったけれど。
(まぁ、寝てるよねぇ)
そう思っていた。
でも――。
翌朝、その考えが甘かったことを知る。




