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3 クロウ視点

翌朝。

温め直したスープを持って、僕は再び部屋の前に立った。

コンコン、と軽くノックをしてから扉を開く。

「おはよー。よく眠れた?」

その瞬間だった。

部屋の隅に並んでいた二人の身体が、ぴたりと固まる。

壁に背中を押しつけ、呼吸すら忘れたみたいに。

昨日までの敵意とは、明らかに違う。

(……あぁ、そっか)

僕はすぐに理解した。

昨日までの目は、

『クソ大人が』

という反発の目だった。

でも、今の目は違う。

いつでも自分たちを噛み殺せる存在を前にした、小動物の本能的な恐怖。

本物の、生存本能から来る警戒。

足元を見ると、靴紐はきっちり結び直されている。

(夜中、抜け出したんだねぇ)

そして。

(見ちゃったかぁ。僕がおじさんたちを外へ放り出してたところ)

怖いよね。

優しい兄ちゃんだと思っていた相手が、素手で大人たちを制圧している姿なんて。

でも、ここで誤魔化すのは違う。

嘘をつけば、きっと二度と信じてもらえない。

だから僕は、いつも通りの調子で話す。

「あの人たちは、君たちを傷つけに来た悪い人たちだったから、外へ帰ってもらっただけなんだぁ」

僕はお盆を静かに置いた。

「……でも、僕が君たちにそれを向けることは、絶対にないからさ」

信じてほしいとは思っていない。

ただ、嘘だけはつかない。

それだけは、決めている。

僕はそれ以上踏み込まず、静かに部屋を出た。

扉を閉める。

そして、少しだけ、その場に立ち止まった。

中から小さな衣擦れの音が聞こえる。

『毒なんて入ってるわけない』

低い声。

シンだ。

『殺すつもりなら、昨日の夜の時点で終わってる』

今度はレン。

しばらく沈黙。

そして。

『……そうだな』

『俺たち、少し警戒しすぎてた』

カチャ、と器の音が鳴る。

そのあと、ものすごい勢いで食べ始める気配。

僕は思わず、小さく笑ってしまった。

「ふふ……」

怖がらせるつもりなんてなかった。

でも、圧倒的な力を理解したからこそ、

『毒を盛る意味がない』

という合理的な結論に辿り着いたんだろう。

本当に頭がいい。

そして、ちゃんと生きることを諦めていない。

(いっぱい食べて、早く元気になってねぇ)

(元気になったら、いつでも噛みつきに来ていいからさ)

僕は、空になるであろうお盆を楽しみにしながら、のんびり廊下を歩いていった。

***

その日の昼。

新しい料理を乗せたお盆を持って、再び部屋の扉を開く。

「はーい、お昼ご飯持ってきたよぉ」

部屋へ入る。

そして、昨日の器を見た瞬間。

案の定、綺麗に空っぽになっていた。

「あはは! 全部食べてくれたんだねぇ」

思わず声が弾む。

「よかったぁ。口に合ったみたいで安心したよ」

僕は愛おしそうに空の器を回収する。

部屋の隅では、二人がまだ警戒を解いていない。

いつでも飛び出せるように膝を立て、鋭い目で僕を観察している。

でも、昨日より少しだけ違った。

『今すぐ殺される』

そんな恐怖は、もう目の中にない。

代わりにあるのは、

『こいつは何者なんだ』

という、理解しようとする視線。

その変化が、嬉しかった。

「また持ってくるからねぇ」

僕はいつも通りの足取りで、部屋を後にした。

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