7
廊下の突き当たり。
ひときわ大きな扉の前で、シンとレンは足を止めた。
互いに視線を交わす。
言葉は必要なかった。
次の瞬間、二人は同時に重い扉を押し開けた。
「お前、何のつもりだ!」
鋭い怒声が、静かな執務室に響く。
大きなデスクの向こうに座っていた青年――クロウは、突然の来訪者に目を丸くした。
「わっ」
間の抜けた声を漏らす。
だが、慌てる様子はない。
シンとレンは並んで立ち、真っ直ぐクロウを睨みつける。
どちらかが前に出ることも、後ろへ下がることもない。
二人で、一つの意思としてそこに立っていた。
「四日だ」
シンが低い声で言う。
「四日間、何も言わずに飯だけ食わせ続けた」
レンが言葉を継ぐ。
「お前が、このアジトのボスなんだろ」
「俺たちを何に使うつもりだ」
シンの拳が、デスクの上で強く握られる。
「汚れ仕事でも何でもやる」
レンの目が鋭く細められる。
「だから、隠さずに言え。本当の目的は何だ」
沈黙が落ちる。
だが、次の瞬間。
「あはは!」
クロウは楽しそうに笑い出した。
「いやぁ、すごいねぇ」
心底感心したような声だった。
「僕の名前も、部屋の場所も、ボスだってことも、ちゃんと調べたんだ」
クロウはゆっくり立ち上がる。
その動きだけで、双子の身体に緊張が走る。
二人は同時に半歩だけ重心を引き、いつでも動けるよう構えた。
しかし、クロウはそれ以上近づいてこなかった。
デスクの向こうで腕を組み、穏やかに微笑む。
「利用目的、かぁ」
少し考えるように首を傾げる。
「そんな大層なもの、ないんだけどねぇ」
「……嘘をつくな」
シンが鋭く返す。
「見返りもなく他人を養う大人なんていない」
「まして、お前みたいな奴ならなおさらだ」
レンも続ける。
クロウは怒らない。
困ったように笑うだけだった。
「うーん……」
しばらく考え込む。
そして、ゆっくり口を開いた。
「僕が気に入ったのはね、君たちの関係なんだよ」
「関係?」
レンが眉をひそめる。
「うん」
クロウは頷く。
「僕の仲間たちも、みんな大切な家族だよ」
穏やかな声だった。
「でも、君たちみたいに、お互いだけを絶対に信じて並んで生きてきた絆は、簡単に手に入るものじゃない」
その言葉に、双子は黙り込む。
「世界がずっと敵だったんだよね」
クロウは静かに続けた。
「だから、隣にいる相手だけを信じて、生き延びてきた」
否定できなかった。
「……」
「……」
「そんな君たちが、もし身内になってくれたら」
クロウは柔らかく笑う。
「きっと、もっと賑やかで、もっといい場所になると思ったんだ」
「それだけ?」
シンが疑わしげに問う。
「うん。それだけ」
あまりにもあっさりした返事だった。
「仕事を押しつける気もないし、売り飛ばす気もないよぉ」
クロウは肩をすくめる。
「ただ、一緒に暮らせたら嬉しいなぁ、って思っただけ」
その言葉に、双子は思わず顔を見合わせた。
(……本気か)
(分からない。でも、嘘をついてるようには見えない)
だからこそ、厄介だった。
理解できない。
理解できない相手ほど、警戒しなければならない。
やがて、シンがゆっくり口を開く。
「……なら、条件がある」
「おっ、交渉だねぇ」
クロウの目が嬉しそうに細められた。
「聞かせて?」




