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器が空になり、お盆の上は綺麗になった。
青年の言葉通り、お盆はそのまま部屋に残されている。
シンとレンは再び部屋の隅へ戻り、背中を預け合いながら次の時間を待った。
やがて、扉が静かに開く。
「はーい、お昼ご飯持ってきたよぉ」
入ってきたのは、やはりあの青年だった。
新しい料理を載せたお盆を抱え、床に置かれた空の器へ視線を向ける。
その瞬間、眠たげな瞳がぱっと明るくなった。
「あはは! 綺麗に食べてくれたんだねぇ」
心底嬉しそうな声だった。
「口に合ったみたいでよかったぁ。いっぱい作った甲斐があったよぉ」
青年は愛おしそうに空のお盆を回収する。
双子の鋭い視線など気にも留めない。
ただ、自分の作った料理を残さず食べてくれたことだけを喜んでいるようだった。
そして、新しいお盆を置くと、いつものようにのんびりした足取りで部屋を出ていく。
扉に鍵はかからない。
その事実だけが、静かに残った。
「……本当に、それだけなのか」
レンが低く呟く。
「分からない」
シンも視線を落とした。
「何も要求してこないのが、一番気味が悪い」
それから四日が過ぎた。
二人の体調は完全に回復していた。
痩せた身体にも力が戻り、スラムを駆け回っていた頃の鋭さを取り戻している。
だが、状況は何一つ変わらなかった。
食事の時間になると、青年が料理を運んでくる。
無理に話しかけることもなければ、何かを命じることもない。
ただ、「よく食べてねぇ」と笑って帰っていくだけだった。
そして、一度だけ。
別の人物が食事を持ってきたことがある。
背は高く、足取りに無駄がない。
洗練された動きだった。
双子が部屋の隅で警戒していても、まるで意に介さない。
男はお盆を床へ置きながら、呆れたように口を開いた。
「クロウのやつ、今日もお前らの飯のために厨房に籠もってるぞ」
ぶっきらぼうな口調だった。
「ボスの部屋は廊下の突き当たりだ。文句があるなら、自分で言いに行け」
それだけ言うと、男はさっさと去っていった。
残された情報は多かった。
――あの青年の名前は、クロウ。
――このアジトのボス。
――部屋は廊下の突き当たり。
二人は、その情報を頭の中で整理する。
「……ボス、か」
レンが呟く。
「ただの世話好きってわけじゃなかったな」
「ああ」
シンも頷く。
「だけど、それならなおさら分からない」
組織の長なら、人を養うにも理由があるはずだ。
働かせるのか。
売り飛ばすのか。
利用価値を見極めているのか。
けれど、四日経っても何も起こらない。
扉には一度も鍵が掛けられず、外へ出ようと思えば出られる。
ただ、生かされている。
それだけだった。
その不気味さが、二人の警戒心を限界まで張り詰めさせていた。
「……もう限界だ」
シンが立ち上がる。
「これ以上、向こうのペースに付き合う気はない」
レンも同じタイミングで腰を上げた。
「ああ。こっちから聞きに行く」
「本当の目的を吐かせる」
二人の考えに、ズレはない。
長年そうして生きてきた。
並んで扉へ向かう。
そして、迷いなく部屋を出た。




