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静まり返った部屋の中で、シンとレンは長い間、閉ざされた扉を見つめ続けていた。
けれど、どれだけ待っても鍵のかかる音は聞こえない。
再び扉が開く気配もなかった。
ただ、床に置かれたスープだけが、静かに湯気を立てている。
「……シン。本当に行っちゃったな」
「……罠だ。必ず何か裏がある」
短く言葉を交わし、二人は音を立てないよう窓辺へ向かった。
並んで外を覗き込み、街並みを観察する。
そこに広がっていたのは、見慣れたスラムとはまるで違う景色だった。
飛び降りられる高さか。
見張りはいるのか。
逃走経路は確保できるのか。
二人の視線が、同じ速さで周囲を探っていく。
「外には誰もいない」
レンが低く呟く。
「泳がせてるのかもしれないな」
「ああ。自由を与えて安心させて、油断したところで捕まえるつもりかもしれない」
シンも静かに応じる。
「大人は、いつだってそうだった」
二人は窓際の床へ腰を下ろした。
互いに背中を預け合う。
ふかふかのベッドには、最後まで近づこうとしなかった。
あまりにも心地よすぎるものは、警戒すべきものだったからだ。
「……『無理に信じなくていい』、か」
レンがぽつりと呟く。
「言葉なら、いくらでも取り繕える」
「俺たちを売る気か、危険な仕事に使う気か……どっちにしても、あの優しさは餌だ」
シンの声は冷たかった。
そう思っていなければ、あの穏やかな笑顔に心を揺らがされそうになる。
それが何より恐ろしい。
レンは部屋の中央に置かれたスープへ目を向ける。
「服を着替えさせて、温かい食事まで用意する……手が込みすぎてる」
「絶対に口にするな」
「ああ。飼い慣らされたら終わりだ」
二人にとって、世界は最初から敵だった。
信じられるのは、自分たちだけ。
だから、与えられる優しさには必ず理由がある。
そう考えるのが、生き延びるための常識だった。
「まずは、この部屋を調べる」
レンが言う。
「拘束具や監視の仕掛けがないか確認するんだ」
「そのあと、逃げ道を探す」
シンも頷く。
「もし、あの男が邪魔をするなら――」
そこで言葉を切る。
レンが静かに視線を向けた。
「……やるしかないな」
「いつも通りだ」
短い会話だった。
けれど、それだけで十分だった。
長い年月を共に生きてきた二人に、余計な説明はいらない。
互いの体温だけを確かめながら、双子は静かに次の一手を考え始める。
ここがどれほど綺麗な場所であろうと関係ない。
世界が敵であることに、変わりはないのだから。




