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ガチャリ。
静かな音とともに、扉が開いた。
「あ、起きた? ちょうどよかった。あったかいスープを――」
のんびりとした声とともに現れたのは、路地裏で出会ったあの青年だった。
手には大きなお盆。湯気を立てるスープが乗っている。
「近寄るな!」
シンが低く唸る。
それとほぼ同時に、レンも一歩前へ出た。
二人は肩を並べ、拳を固めながら青年を鋭く睨みつける。
どちらかが守るのではない。
互いを唯一の半身として、ずっと隣に立ち続けてきたのだ。
少しでも怪しい動きを見せれば、二人で飛びかかるつもりだった。
「騙されないぞ!」
シンの声が部屋に響く。
「優しいふりをして閉じ込めて、俺たちを利用する気なんだろ!」
「そうだ!」
レンも鋭い視線を向ける。
「油断した瞬間に、好き勝手するつもりなんだろ!」
二人の荒い呼吸だけが、静かな部屋に響いていた。
青年は足を止める。
しばらく双子を見つめ、それから困ったように眉を下げた。
「ううん。利用なんてしないよぉ」
穏やかな声だった。
青年はまず、持っていたお盆をゆっくり床へ置く。
器から立ち上る湯気が、柔らかく揺れた。
続いて、両手を肩の高さまで持ち上げる。
手のひらを二人へ向け、自分に敵意がないことを示した。
「ほら。何も持ってないでしょ?」
青年はその場から動かない。
「痛いこともしないし、怖いこともしない。安心してほしいなぁ」
「嘘だ!」
シンが叫ぶ。
「そうやって油断させる気なんだろ!」
「俺たちは騙されない!」
レンも低く唸る。
二人にとって、世界は最初から敵だった。
信じていいのは、隣にいる半身だけ。
だからこそ、差し伸べられる優しさほど信用できないものはなかった。
青年は、そんな激しい拒絶を受け止めるように静かに目を細める。
「……信じられないのは当然だよね」
責めるような響きはない。
むしろ、その警戒心そのものを受け入れるような穏やかさがあった。
「今まで、たくさん嫌なことをされてきたんだもんね」
柔らかな声が続く。
「だから、無理に信じなくていいよ」
青年は床に置いたスープへ視線を向けた。
「ただ、それだけは頑張って作ったから、僕が部屋を出たあとで、二人で食べてくれたら嬉しいな」
そう言うと、両手を上げたまま、ゆっくりと後ろへ下がる。
決して双子を刺激しないよう、慎重に。
「扉に鍵はかけないよ」
穏やかな声が続く。
「もし、本当に僕が怖かったら、元気になってから逃げてもいいからね」
最後にそう告げると、青年は静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
けれど、鍵の回る音は聞こえない。
部屋に残されたのは、双子と、湯気を立てるスープだけだった。
シンとレンはしばらく動かなかった。
閉ざされた扉を、ただ無言で見つめ続けていた。




