26 友達
「なになになに!?私に何か御用ですか?!御用ですよね!」
漸くの待ち人にグイグイ迫るハル。
「え、あ。えぇ?」
「貴女の事は存じてます!巷で有名な干し葡萄のクグロフ!貴族御用達のアプリコットフェネトラ!それだけでは無く生活必需品から海運業まで多くの商いを束ねる平民の星!いえ、男爵様の御息女であるローナン嬢ですよね!しかも商才だけでは無く魔法の才能もピカいち!えぇ知らない人等居ませんとも!」
そう、ローナンはハルが言う様に商才だけではなく魔法の才能も持ち合わせている。
本編が始まればヒロインのハルにとって、唯一と言っていい心強い味方となる人物。
それがハルの目の前に現れたのだ。
正直彼女は強い。
その強さは本編の戦争が始まるまで誰も気が付かなかったが、悪魔に取りつかれた剣聖勇者、あのお爺さんもその魔法で撃破出来る程なのだ。
「そ、そんなに私。有名?」
棒読みのその口調にハルは更にテンションを高めていく。
「有名も何も私にとっては王子様よりも有名です!」
その言葉にローナンはたじろぐ。
彼女は彼女なりに自分の棒読み陰キャキャラを15年貫き通し、表には出ないよう心掛けて来たのだ。
確かにテルマイルの騎士の存在は誤算だった。
だがそれは公爵令嬢が幼少の頃に、何か特殊なルートを進んでしまった結果あの騎士が生まれたのだろう。
なので正直ローナンには関係が無い。
だが特待生でヒロインであるハルとの今の無関係が、ルートを逸脱した行動をとっていたて自分のせいの可能性が高いと悩んでいた。
ローナンは悩んだ日々を思い返す。
「(……まさか私が辺境の教会で皆を欺いて魔石を取ったのが原因?でもあの魔石はいずれハルが私にくれる物だし問題ないはずよ!?)」
服の中に入れているので見えはしないが、彼女の胸元にはその魔石がネックレスとなり今まさにぶら下がっている。
その魔石が気になり胸を押さえるローナン。
「ローナン様。一度も喋った事も無い私をそんなに心配して頂けるのですか?」
「(え?ん?)」
考えれば彼女の事など1ミリも心配などしていなかったので一瞬だが理解に苦しむ。
しかし、自分が胸に手を充てハルを下から見上げるその姿は、友を心配する少女にしか見えない。
ローナンは身長が低く目が潤んでいるので、胸に手を充て見上げるだけで、震える小動物に見えてしまうのだ。
それは彼女自身も自覚していた事で、プレイ中もその怯えた小動物感が案外好きなキャラだった。
「(そうか。ハルは私の見た目でそう思っているのね。なら私のやる事は変わらない。貴女に近づき友となって最後はちゃんと王子のハーレムに入れてあげる。それが私の仕事だもの)」
ローナンはこの機に乗じ、ハルのペースに乗る事にした。
「ローナンさん!私は無力なのです」
「(……知ってる)」
「私が貴族の方々から疎まれるのは分かり切っていた事です。それでもこの学園で学び、いつか故郷の両親へ恩返しがしたいと決意してここへ来ました。だからイジメは覚悟していたのです」
「(おぉ!本編のヒロインのセリフだ!でも今じゃない気がする)」
「ですが騎士様の計らいで公爵令嬢様とお近づきさせて頂きましたが、公爵令嬢様はそのイジメが許せないと、あろう事か伯爵令嬢様と代理決闘をされる事になったのです」
「(……それは知ってる。だからここはその決闘を静観してその騎士君には早々に退場してもらうのよ?)」
「このままでは私は何も出来ないまま退学になってしまいます!」
「(まぁ三対一だし確実に負けるでしょうね……って、え?)!!」
目を見開くローナン。
「今なんて言ったの?貴女が退学?公爵令嬢と騎士ではなくて?」
騎士の退学はどうでもいい。公爵令嬢の退学は王子が阻止をするでしょう。
でもハルは違う。
「えぇ、私は平民ですので原因となった私は多分退学になります」
何故気が付かなかった私!そりゃ原因であるこの子がなんのお咎めも無しに決闘が終結する事などあり得ない!
この決闘で騎士が負ければ王子ですら覆せない可能性が高すぎる!
これは不味い。
「なのでどうかお願いです!テルマイル様の騎士様に力をお貸しください!」
「(くぅーーーーーーっ!どうしたらいいの私!)」
このまま彼女の味方をして代理決闘に参戦する?そもそも三対一の決闘なんて理不尽なんだから無理を言えば参戦は出来るだろし魔石を持つ今の私なら……本編初動くらいの魔法は使える。
私の魔法は強力。私が決闘に参加したら万が一ザクス様を傷付けてしまう可能性もある。
でもこのまま彼女が退学になれば三年を待たずして戦争が起こる可能性も出て来る。
そうなればザクス様は戦場へ向かってしまい、下手をすると私も戦場へ送られる可能性がある。
でも共に戦場で死ねるのなら……絶対無いわね。私は平和の中でザクス様と生きたいの!
王子は言ったわ。ザクスの中身は現代人だけど君はそれでいいのか?と。
いいに決まってるじゃない!なんせ今の彼は演技無しでザクス様そのままの性格と喋り方なのよ!?
逆に現世で彼に出会ってたら即落ちしてる自信すらあるのよ!?
ローナンは前世含めて最高潮にいっぱいいっぱいなりに考えた。
――王子を敵に回す訳には行かないけど、もうこれしか方法が無い!
私は上着のフードを深く被る。
そう、身元さえ分からなければどうとでもなる。
「――私も代理に立つ」
「ローナン様」
「様はいらない。今から私と貴女は友達」
「はい!ローナンちゃん!」
ちゃんまでは許してないが、そのうちそれが普通になるなら仕方ない。と、ローナンは修練場に現れた王子に視線を向ける。




