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25 決闘前の走馬灯

 決闘の会場は、校舎に隣接する鍛錬場。


 ここでは生徒達が剣技大会や魔法の成果を家族へ披露する事が可能な様に、すり鉢状の観客席が設けられている。

 その観客席には昼の騒ぎを聞きつけた、複数の生徒や教師の姿が見られた。


  そして今回の決闘の張本人であるテルマイルは、特待生ハルと共にステージ脇にある座席へと腰を下ろしている。


「そんなに不安そうな顔をしてどうしたのかしら?ハルさん」


 いつもの様に扇子を広げ、余裕の笑みで笑いかける公爵令嬢とは逆に、ハルは青い顔ではにかむ。


「テルマイル様はアレキサンドロス君の事を凄く信用されている様ですけど……負けたら」


「あり得ません」


「いやでもですね。もしもの時ってやっぱりあると思うんです!なので日を改めてもっと強そうな人を代役に立てたりとかですね?したらどうかなぁ~とか」


「それこそあり得ません」


「そうですよねぇ~……」


 特待生ハルは今の状況に不安しかない。

 こんな未来ルートをハルは知らない。


 そもそもいつから別の知らないルートに入っているのだろう。


 いや、あのアレクが既にテルマイルの隣に居る時点で相当前からこの世界は別ルートに突入しているのだろうけど。

 そう考えると不安しかない。


 そもそも自分がプレイしたルートに、公爵令嬢の騎士と名乗る生徒の存在は無かった。

 正確に言えば、プレイしたどの選択肢にもその様な者はキャラ登場しなかったのだ。


 なら答えは一つ。完全無欠のモブである。


 正直見た目は良い。


 背も高く眼鏡は彼の知性の高さを彷彿させる。もしこの世界がデモ園で無ければ、何処かの学園の生徒会長だと言われても納得してしまう。



 イケメンだが彼はモブ。



 ハル自身がそのモブに転生していたら、デモ園アイテムをかき集め、強引に強くなってワンチャンあったかもしれないが。転生者であるヒロインはここに居る。


 他に転生者が居るのなら、入学式でアレクと王子のいざこざに私同様割ってるだろう。


 もしあの出来事が許容範囲内だとしても、今の状況は看過できないわけで……ここに至るまでに何かしらの提案をヒロインである私に持ち掛けてもいい筈なのだ。


 そしてその提案を持ち掛けて来る者は転生者である可能性が高い。

 だが誰も来なかった。


 確かにテルマイル嬢がアリス嬢へ決闘を申し込んだのも急であったし、その決闘がその日の放課後なんてもっと急だ。分かっていても動けなかった可能性も否めない。

 それなら今この状況下で来てくれてもいいはず。


 彼女は一縷の望みを今この瞬間に掛けていた。

 自分以外の転生者の存在が、自分では考え付かない回避方法を持ち掛けて来る事に。



――しかし無情にも寮で作られる夕食の匂いだけが漂う。


「(お腹減ったなぁ~、カレーかなぁ。これでアレク君が負けたら私は田舎へ帰らされるのかな?あれ?入学早々ヒロイン退場っておかしくないかな?……あれ?戦争って私の田舎って関係ないよね?んん?もしかしてもうこのまま彼が負けてしまって私も田舎に帰って幸せにくらしましたとさ!でいいのでは?」


「どうしたの?さっきから百面相の様に隣で泣いたり笑ったり。そんなに心配する様な事はありませんわよ」


「ええ、少し早めの走馬灯の様な物が見えただけなので――」



――タタタタタタッ!



 その時、観客席から駆け足で近づく音がする。



「すみませーん!」


 見知らぬ女生徒が二人に向かい大声で手を振り駆けて来る。


「(キターーーーッ!)」


 ハルは振り返り狂喜乱舞する。


「(あ、あれは特待生ハルの親友!棒読みキャラのローナンちゃん!)」


 思わずハルもローナンへ向かって駆け出して居た。



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