21 師匠と弟子
――放課後。
日の入りが決闘開始なので、まだ一時間程だるでしょうか。
私はテルルとハルさんを残し、懐かしい気配を辿り中庭に向かいます。
「気配を辿って彼を探すのは6年振りくらいでしょうか。と、居ました」
中庭では、小さな池で一人の老人が釣りをしています。
用事のあった老人です。
「師匠、お元気そうでなによりです」
「ふぉっぉお!!……ふぉっふぉっ、お主も中々に腕を上げたようじゃ。儂の投げたチョークをペンで弾くとは中々じゃったぞい」
「あのままチョークが彼の顔に当たっていたら、大惨事どころか死亡事故が授業初日に起こってましたよ」
「あの程度で死ぬ様じゃ悪魔達には太刀打ち出来んでな。あそこで死んだ方がマシじゃ」
担任カーライル。
幼少の頃父に「俺ではもうお前の相手はできん!」と言われ紹介されたのがこのお爺さんです。
「また悪魔の話ですか。そんなものは死んでも会う事はありませんよ」
一度死にましたが居ませんでしたしね。あ、神様ぽいのは居ましたけど。
「ふぉっふぉっ、まぁ知らぬ方がええじゃろうな。で、挨拶だけをしに来た訳でもあるまいて」
「流石師匠。そうですね、今日は師匠に質問をしに参りました」
「うむ。儂とお前さんの仲じゃ、どんな願いでも聞いてやるぞい」
「ありがとうございます。願いと言えばそうなのですが、実はこれから貴族の決闘の代理として戦う事になったのですが、私で勝てるでしょうか……」
対人戦の経験が無いわけではない。
ずっと父や師匠、騎士団の皆さんと剣を交えて来たのです。
ですが低位の貴族と言えど、私がサイフォン家の子息だと言う理由で全員が手を抜いていたのです。
目の前の師匠ですら本気で私に相対してくれた事はありません。
なので不安で仕方ないのです。
「……今、なんと申した?」
「いえ、ですので今の私の腕前で勝てるかどうかを師匠の目で見た頂きたく。……その、出来れば今から私と剣を交え――「ならーーーん!ならんぞアレク!それは自身で敵と相対し、己で確かめるのじゃ!」
取り付く島もないとはこの事でしょうか。
「剣を交えるのはもう二度と無いと申したであろう!」
確かに最後の修行の日に「もうお前とは二度と打ち合わん!免許皆伝じゃ」と言われた。
三日三晩剣を撃ち合い続け、最後の最後勝てると思った時にそう言われて免許皆伝となりました。
ですがどう考えても手を抜かれていたのです。
それを証拠に師匠は最初と最後しか私と剣を交えてくれませんでした。
「ですが師匠!」
「く、くどい!お主とやり合えるのはもう悪魔くらいじゃと申したであろう!何故自分を信じられぬか!いや、儂の言葉を信じろ!もう嫌なんじゃ!お主とはやりあいとう無いのじゃ!ほんとうに嫌なのじゃ!」
何故か子供の様になりだした師匠ですが……。そうですね、私の剣など子供のお遊びなのでしょう。
「そうですね。自分の、いえ、師匠のお言葉を信じて全力で相手を切り伏せてみます。突然の訪問失礼致しました」
流石の私も少し落ち込みます。
「いや!待つのじゃ!だ、ダメじゃやぞ?」
「えっと……なにがですが?」
「全力を出したらダメじゃぞ!?お主なに言っとるんじゃ?」
何を言ってるのか分からないのは師匠なのですが……。
「お主、全力だして何をするんじゃ?」
師匠は何かに怯える様に私の質問に質問を返し続けます。
いったいどうしたと言うのでしょう。
「決闘と申したよな!?」
「はい、生徒同士の喧嘩ですね。すみません喧嘩ごときで」
ですが師匠は何故かソワソワしています。
何かあるんでしょうか……トイレを我慢しているとか?
「よ、よし!お主に一つその決闘に課題を出してやろう」
「課題、ですか?ですが全力でやって勝てるかどうかわか――「そうじゃ!お主は剣を使うな!」
「え?」
「剣の使用を禁ずる!よいな、絶対剣を振るうな」
「こ、拳で戦えと!?」
「そうじゃ、拳のみで勝ってみせよ」
成程、相手の剣を避けるのは得意です。その得意な物を伸ばせと、そう仰るのですね師匠!
「わかりました師匠!全力で拳で戦って参りま――「全力禁止!」
「え?」
「全力も禁止じゃ馬鹿もん!」
「は、はい!」
その気迫に押され「はい」と言うしかなかったです。
――――
――「(この化け物が全力出したら確実に相手の生徒が死んでしまうわい!しかしどうしたものか……拳といえど当たれば相手の顔面が無くってしまうかもしれんぞ……まったく喧嘩なぞなんでまた始めたんじゃ。はぁ……嫌じゃが……本当に嫌じゃが、儂がその決闘参に加するしか……ないのかのぉ。とほほじゃ)」




