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20 師

――広大なテレスティア学園の敷地には、魚が泳ぐ池がある。


 その池へ釣り糸を垂らし、もの思いにふける老人が一人。

 剣聖勇者、カーライルその人である。


「まさか教師となるとは、人生ままならんものじゃな」


 そう口ずさみ過去を振り返る。

 儂が剣聖勇者と呼ばれ出したのは、大陸最悪の悪魔『ディアボロス』をその剣技で打ち滅ぼした時じゃたか……。

 若気の至りと言っても良いじゃろうが、当時の儂は天狗じゃったな。

 各国で剣聖勇者の名をかざし、色々悪さもしたもんじゃ。


 じゃがこの国の騎士爵である先代サイフォンと喧嘩になり、一撃で沈めてやろうと思っとったが奴は儂と互角にやり合いおったのじゃったかのぉ。

 この男が共に『ディアボロス』討伐に参加していたならば、もっと楽に討伐出来ていたはずじゃったと何度思った事か。――だが奴は愛に生きる奴じゃったの。


――「悪魔の討伐?がはははっ、どのみち嫁と息子が家にいるから旅には出れなかったわ」


 そんな事を言ったのを鮮明に覚えている。

 奴に負けるのが嫌で、そこからまた剣の修行に明け暮れた。

 だがそんなある日、その男は突然この世を旅立ってしもうた。


 病じゃった。


 儂は生きる希望を失い、この国で勇爵の位を貰い隠居する事にしたのじゃ。


 先代サイフォンの息子にも修行を付けてやったが、奴ほどの腕は持ち合わせなんだ事にガッカリしたのもいい思い出じゃて。


 じゃが問題は起こった。


 そのサイフォンの息子が儂に相談を持ち掛けて来よった。


「剣聖勇者様、私ではもう息子の相手が出来ません。是非恩師の元で修行を付けてやっては貰えませんか」


 奴の息子の頼みじゃし、儂が勝手に期待し落胆した者の頼み。断るのは奴に対して忍びない。

 そして儂はアレキサンドロス・サイフォンと言う子供を弟子とした。


 じゃが、その子供は化け物じゃった。

 そう奴は、アレクは、まさに化け物なのじゃ。


 当時4歳と言う幼子。試験じゃと言うて試しに受けたその一撃は、儂を本気にさせるには充分じゃった。


 それから5年、アレクが9歳の時に儂は免許皆伝を与え奴の元から去ったのじゃった。


「――ふぅ、当時を思い出すと脂汗が流れて来るわい。あれはヤツとの何度目かの鍛錬じゃったか」


――――

――


『師匠!今日こそは本気でお願いします!」


「うむ、いいじゃろう(いや、いつも本気通りこして限界突破しとるんじゃが!?)」


「では本気で参ります!」


「こい!(いきなり本気で来る奴があるか!)」


――ガキーン!カンカンカン!ガキーン!


 息をも尽かさぬ剣戟。それに加え一撃一撃が重すぎる。

 なんとかその力を逸らすのが精いっぱい。


「(このままじゃと5分も持たぬ!)」


 そして儂は奴から逃げ続けた。

 三日三晩は逃げ続け、隣の国を超えてその隣まで行っとったかもしらん。

 逃げても逃げても鬼の形相でどこまでお掛けて来よる。


――ブるる。

 思い出すと未だに背筋が凍る。


「あの時免許皆伝を与えねば、儂は……確実に塵も残さずこの世から消されていたじゃろう。奴が気になっていた事とあやつの父の頼みで教師を引き受けたが、奴と剣を交わす事はせんぞっと、掛かりよった!こりゃ大物じゃ!」


 魚を針から外しふと思う。


「奴に喧嘩を売ろうなぞと言う馬鹿者が居たら……そうじゃの、この学園に居る間くらいはこの命で守ってやろーて。あやつの孫であるアレクを殺人者にする訳にはいかんよな――のうサイフォン」



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