10 怒りと陰謀
なんか二人の時が止まっています。
が、話を進めないといつまでもタイムストップしたままでしょう。
そして彼女達が疑問に思った事に答えるのも騎士の勤め。
「ハルさん。彼女はこの国の公爵令嬢です」
「知ってるわよ!」
あれ?あ、テルルは言っても公爵令嬢ですし、知ってる人も居ますよね。
「テルル様。聖魔法の使い手で女性です」
「ぉ、ぉお!女じゃないか!この馬鹿野郎!」
「ヒッ!」
今のヒッは私ではありません。ハルさんです。
何故か凄いビビッてますが、大丈夫です。私はいつもこんな感じの扱いを受けてますから。
それにテルルは自分の発言に直ぐ反省して、咳払いでもしながら何事も無かった様に振る舞いますよ。
顔も凄く綺麗ですが心も綺麗なんですよ?彼女。
「アレク!なんでいきなり保健室へ女を連れ込んでんだ!お前舐めてんのか?あぁそうか、やっぱり私の事舐めてんだな!おい女!てめぇなに入学式早々男に保健室連れ込まれてんだ!ぁああん?お前ビッチなのか?癒しの魔法って男心癒す的な魔法使ってんじゃねーよ!この聖ビッチが!」
ヤンキー言葉が加速した……だと!?え、どうしたって言うんですテルルさん!?
見ればハルさんは完全に怯え切っています。
そりゃそうですよね。
権力を持つ人が初対面の一般人にその言葉遣いは怯えて当然です。
なので私は。
――「てい」
テルルの頭へ軽くチョップしました。
これで矛先は一旦私に向くでしょう。向いたらこっちの物です。
目を見てちゃんと理由を聞――ゴスッ、ドン!
おわかり頂けただろうか……。
ゴスッの音でテルルは私のスネを蹴り、その痛みで屈みかけた顎に向かってドン!と彼女の一撃が入った事を……。
薄れゆく意識の中、テルルがハルさんへ「認めないわよ!」等と言ってる様です……あとでフォローをし、な、けれ――。
そのままベッドへ倒れ込んだ私は意識を失ってしまいました。
――――
――
テレスティア王立学園は全寮制である。
男女別々の建物の寮が存在する。
入学式も無事終わり其々が夕食を済ませるが、食堂は男女共用となっている。
共用部分がある理由としては、異性の前で女性は身だしなみを整え、男性はレディーファーストを学ぶ為だ。
しかしそんな食堂の一角で、2人の男子生徒と2人の女生徒の4人が集まって、周囲を警戒しながらひそひそと話をしている。
白の制服を着た男子生徒が言う。
「あの後だが騎士が聖女を公爵令嬢に面会させた」
「なんですって!!」
女生徒二人の内声を上げたのは一人だけ。
それに気付いたもう一人の男子生徒が、眼鏡を掛けた女生徒へ。
「声がデカい!しかしお前は驚かないのか?」
「……ええ、私はそんな程度では驚かないわ。そんな事より、三人共ちゃんとしてよね」
「あぁ、それは抜かりない」
「王子の幼馴染なんだから、抜かりが有ればそれはそれで驚きだわ」
眼鏡をクイッと上げる姿は、さも勉強が出来る秀才然としている。
そんな彼女に白制服の男が問う。
「なんにせよ予定通りお前は公爵令嬢に取り入るんだろ?」
「勿論。予定通り特待生をイジメ抜いてあげる」
「「言い方」」
二人の男子生徒が声を上げてしまい、周囲を見渡し小さくなる。
「私は特待生に付くんだから程々にしてよね」
「はいはい、でも仲間は増やしておいて。公爵令嬢の力は絶大。バランスは大事」
「ええ、でも今日の様子を見る限り公爵令嬢の体力は大丈夫なの?今日も貧血おこしてたけど」
「たぶんあれは演技。問題ない。私が気になるのは、あの騎士の方」
「そうね……私も気になる。モブにしては超絶イケメン過ぎるのはあり得ないわね。ねぇ男子二人、あの騎士について詳しく調べてくれる?」
「「おう、わかった」」
そうして食堂に漂うムールズ・ア・ラ・マリニエールの香りと共に4人の姿も消えたのだった。
「「「「ムールズ・ア・ラ・マリニエールってナニ!?」」」」
――まだ居た。




