8話 榊原楓
「さてと……」
獣使いの姿を見送った少女は再び刀を抜きながら私たちに振り向いた。
「手前勝手で悪いけど貴女の力量見せてもらえないかしら?」
「なに?」
「手合わせお願いするわ」
距離を一瞬で詰められる。
相手の刀がこちらに到着する前に『砕界玉臂』を展開させ、攻撃を防ぐ。
「ッ!手合わせだと!?……何が目的ですか!?」
問うてる間にも刀は振るわれる。
一撃一撃が鋭く重い。
――だが!
「……!?」
前進し、私たちの間合いをさらに狭める。
相手の攻撃は更に猛威をふるう。
全ては防ぎきれないが、致命傷になる斬撃のみ防ぐ。ただ一撃喰らわすために歩みを止めない。
そして、ついにたどり着いた。
「――ここは!私の間合いだッ!!」
右拳を相手のボディーに叩き込む。
「……ッ!」
渾身の一撃だったが、相手は鞘で防ぎ、そのまま後ろに飛んで衝撃も逃がした。
鞘は粉々にしたが、相手は無傷。それに引き換え私は傷だらけ。まだまだ相手は実力を隠してるように思えるし、まだ後ろには侍のナイトも控えている。
正直勝ち目は薄い……。
「だがそれでも!守り切る!!」
チラッと視界に入れるのは我が主。
意味も……、意義もわからぬままにリタイアなどさせてたまるか!
「名を聞いてもいいですか?」
「……榊原楓よ」
「楓……、貴女は強い。おそらくこの戦いの中で最も実力があるのでしょう。だが、一撃届いた!……ならば勝機はある!」
『砕界玉臂』が黄金に輝く。
たった二撃許された必滅の奥義。当たれば勝利は確定する。
「行くぞ!」
「ありがとう。もう大丈夫。……あぁ、鞘は壊されたんだっけ」
楓はいきなり構えを解き、それと同時に敵意もなくなった。
「…………はえ!?」
素っ頓狂な声を出してしまった。
そんな私に目もくれず楓は着ていたパーカーを脱ぎ始めた。
本当に戦意がなくなったのだろうか?
ブラフかとも思ったが刀身をパーカーで包んで露わにならないように袖で縛っている。
こちらとしてはいきなりの事態で毒気が抜かれる思いだ。
それを確認して『砕界玉臂』の光も徐々に消していく。
「……本当にもう戦わないのですか?」
「まだ戦いたかったの?」
「い、いえ……、そういうわけでは…………」
今優先すべきは主を安全な場所に連れて行き、治療すること。戦わないのであれば助かるのだが、ただただ楓のこの判断に疑問が残る。
「いったい何故?」
「何故って、最初に言ったじゃない。手合わせお願いって」
「私たちは敵同士なのですよ!?」
甚だ疑問である。プレイヤーである主は気絶し、逃げ場もない。楓と侍のナイト二人でかかってこられたら私たちの脱落は必至。
先の獣使いのような渡す情報もないのだから、相手にとって私たちに逃げられる可能性があるこの時間はデメリットでしかない。
「警戒しないでいいわ。一つ提案よ」
「…………提案?」
「同盟を組みましょう」
「……!?……なぜ私たちなんですか?」
予想外のことだった。
楓はポーンと言えどフレイム二体を相手取り優勢に立ち回るほどの実力者。その上、そのフレイムは最強のフレイムの一角のナイトだ。
凡そ同盟が必要とは到底思えない。
「理由ね……」
楓は何か言い淀む。
「……倒したいやつがいるの。でも私たち二人じゃ勝率はよくて五分。せめてもう一人近距離戦に長けたやつがいる」
今さら気づいたのだが、パーカーを脱いだ楓の体は何ヶ所も包帯で巻かれていた。
楓ほどの強者にここまでの傷を与えるとは……。
「……その倒したい相手とはもしかして、もう一人のナイトですか?」
「ええ……」
私の問いに楓は小さく肯定した。
「やつはおそらく最強のフレイム。私たちは二対一でも劣勢だったわ。一対一で敵うやつなんて多分いないでしょうね」
…………俄には信じられない。
おそらく私よりも強い楓が侍と二人がかりでも敵わない相手がいるなんて。
だが、楓の体を見て真実味が増す。
楓の言うことが本当なのであれば、私たちもそのナイトと遭遇してしまったら敗北してしまうのではと危惧してしまう。
「それで返事はいただける?」
だからこそ楓の提案は魅力的だ。二対一なら難しくても三対一なら話が違ってくるのだから。
「もちろん、断ってくれてもいいわよ。まだあてはあるしね。まあ、その場合ここで逃がす必要はなくなるけどね」
笑顔で言うがそれを聞く私は笑えない。……酷い脅しだと思う。
「わかりました。主には起きたら私からお伝えします」
「ありがとう。その子の治療もしたいだろうし今日はうちに来て泊まっていきなさい」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何もせっかく同盟組むのにこんなとこで他の参加者に襲われてリタイアされても困るじゃない」
そう言われてしまえば納得せざるを得ない。
獣の大群が押し寄せたり、三体のフレイムが現れたりと、相当目立ってしまった私たちを他のプレイヤーたちが見ている可能性は大いにある。
今、楓たちと離れて第四のフレイムに襲われでもしたら楓の言う通り次にリタイアするのは私たちかもしれない。
……なので、ここは楓の厚意に甘えておこうかと思う。
「それでは今日はお世話になります」
「ええ。別に大したおもてなしはできないけどね。清正もそれでいいわね?」
「良いも何も楓が決めたのならば吾輩はそれに従うまでだ」
「決まりね!じゃあ帰りましょうか」
そうして長かった初戦を終え、楓の家に向かうことした。
その道中、まだ疑問に思っていたことも楓にぶつけてみた。
「ところでなんで近距離戦に長けた者と組みたいんですか?」
正直なところ近距離戦が得意な私より遠距離から援護できる者と組んだ方がいいと思うのだ。
「え……?ああ、いくつか理由はあるけれどね。1番は裏切りが怖いからね。同盟組んでいざ正念場迎えたところで後ろから撃たれるなんて笑えないでしょ?後ろに味方を立たすよりかは隣で戦ってくれたほうが私も安心するの」
同盟とは言え敵同士。その意見は至極真っ当だった。
もちろん、私は裏切るつもりはこれっぽっちもありはしないが。
それでも、楓は何か思うところがあるのか言い終えると遠くを見るように夕陽を見つめる。
――拳を硬く握り締めながら。




