3話 工場地帯での接敵
カーンカーンと鉄か何かを打っている音を辺り一面から響き渡る。
麻紀姉ちゃんとやってきた工場地帯ではおそらくNPCのみしかいないと思われるのに、やたらと騒がしい。
機械の唸り。金属の軋み。油の匂い。
静けさとは程遠い空間に、麻紀姉ちゃんは落ち着かない様子で周囲を見回していた。
また、片付けているのかいないのか分からない程度にごちゃごちゃと物が散乱してるの雑然さも気になって仕方がないようだ。
「晴明くんは他のフレイムがどこにいるかわかるんですか?」
少しでも気を紛らわすように、麻紀姉ちゃんが尋ねてきた。
「ある程度の距離、まぁ三十メートルくらいなら俺でも感知できるぞ」
「そんなに?」
「でも上には上がいるぞ。ナイトなら三百メートル以内なら余裕で把握できるはずだ。その次にビショップ、最後にルークかな」
「ルークは弱いんですか?」
「いや、ルークは遠距離専門だ。視界に入ってしまったらーー感知する前に撃たれる」
「それは……怖いですね」
少し間を置いて、麻紀姉ちゃんがまた口を開く。
「晴明くん達のクラスのポーンはどうなんですか?」
「俺たちポーンは感知能力が優れているやつもいれば優れていないやつもいる。その分戦闘能力が高かったり何かの能力に秀でていたり一風変わったやつらばかりだ」
「未知数ってことですか」
「まぁな」
「はぁ……、なら他のポーンの方々には会いたくないですね」
「いや、ポーンは長所と短所がはっきりしてるからいくらでもやりようはある」
そう言ってから、少し声を落とす。
「今一番会いたくないのはナイトだな。単純な戦闘能力なら間違いなくナイトが一番強いし、感知能力に優れているから先手を打たれるかもしれない。どうせ戦うならもうちょっと準備が欲しいな」
「色んな人たちがいるんですね……あ!この通りを抜けたら河川敷ですよ。そこでお昼にしましょう」
本当にわかっているのかわかっていないのか、曖昧な返事ではあるが今のところ他のフレイムの反応はない。昼食を終えて一休み入れたら範囲を広げ麻紀姉ちゃんの案内のもと大通りから逸れた路地へ入るろうかな。
「そう言えば一つ疑問だったんですけど、私達プレイヤーがこの戦いに参加する意味はわかりますが、晴明くんたちフレイムが参加するメリットはあるんですか?」
これまた当然の疑問とも言える。
この戦いの報酬は二度目の生と願望の実現の二つ。だが、それはプレイヤーの報酬であってフレイムではない。
それならばフレイムがプレイヤーに加担する理由はないのではと考えるのだろう。
「ああ、あるよ」
そう。俺たちには是が非でも叶えたい願いがあるのだ。
「俺たちフレイムは麻紀姉ちゃん達人間とは似て非なる存在だ。所詮人を象った人形でしかない。故に俺たちはフレイム《人型》」
自分の手の平を見つめる。
肌の色、血管、終いには指紋など細部まで見ても人間と何ら変わりはない。客観的に見てもその意見は曲げようがなかった。
しかし、それでも自分は人間ではないのだ。
おれたちフレイムはこの戦いのために作られた存在。
この戦いはそんな俺たちに唯一許された人間になる機会。
「この戦いに勝てば、俺は人間になれる。この戦いに勝ち残り願いを叶えるんだ」
ーーーー人間として真の生を得る。それこそが全てのフレイムの願いであり、希望である。
見つめていた手を強く握り締める。例え、この先どの様な敵が現れようとも討ち破り勝者になると改めて自身に誓いを立てる。
すると俺の手をそっと麻紀姉ちゃんの両手が包み込む。
その手には強さは感じられない。
だが、今まで感じたことのない優しさと温もりを感じることができた。
「勝ちましょう、晴明くん。勝って第二の人生という明日をともに歩みましょう」
人としての生を謳歌できなかった麻紀姉ちゃんも俺と同じ思いだった。
勝って真の人生を手に入れる。その気持ちが麻紀姉ちゃんの顔にはっきりと出ていた。
大人としては頼りないし、武道に優れているわけではない。むしろ運動神経も決していいとは言えない。
だが、それでも確信した。麻紀はどのプレイヤーにも負けないくらい信に足る最高のパートナーだと……。
「残念だけど、貴方たちが迎える明日は来ないわ」
路地の出口から唐突に現れる一つの影。その格好はどこにでもいる少女の服装。しかし、少女が佩用する太刀が全てを物語っている。
俺たちにとって最初の敵であり、最後の日を与える存在であるのだと。
俺は知らなかったんだ。
この数日間が夢のような日々だったので知る機会もなかった。
ーーーー世界の歯車は常に残酷な神様が廻しているのだということを。




