10話 少しだけ前へ
楓さんの叫び声が屋敷中に響き渡った後、結局ぼくたちは清正さんの五目炒飯を食べることになった。
……いや、なったというより、それ以外を食べる勇気が誰にもなかった。
「うむ!やはり炒飯はこうでなくてはの!」
「美味しいです」
「だね。普通にお店で出せそう」
パラパラに炒められた米。絶妙な塩加減。香ばしい醤油の香り。
予想以上の出来栄えで、これはかなり美味しい。
対して、あの赤い高菜炒飯(?)を作り手の楓さんは美味しそうに頬張っているが僕たち三人はちょっと離れたところで信じられないと言った思いで見つめていた。
「ちょっと、そんな露骨に避けなくてもよくない?」
「楓。それは食べ物ではなく兵器です」
「ポーン!?あんたまで!?」
「だって見た目からして危険ではありませんか!」
必死に抗議する楓さんを見ながら、ぼくは少しだけ笑ってしまった。
昨日までなら、こんな風に笑う余裕なんてなかったと思う。
死んだことを理解した。
だというのに、今こうして誰かと食卓を囲んでいる。
それが不思議で、少しだけ嬉しかった。
こんな状況なのに、そう思えてしまう自分が不思議だった。
「主?」
隣に座るポーンが不思議そうにこちらを見ていた。
「あ、ううん。なんでもない」
誤魔化すように炒飯を口に運ぶ。
……美味しい。
だから余計に、わからなくなる。
ぼくはどうしたいんだろう。
死んだ記憶もない。
生き返りたいという実感も湧かない。
この戦いに参加する理由だって曖昧だ。
ただ流されるままここにいる。
そんなぼくが、ここにいていいのだろうか?
「何か悩んでる顔ね……」
楓さんから突然言われ、ドキッとしたが表情には出さない。おそらく生前は不安や憂慮は表に出さなかったような気がする。
だからこそ昨日今日会った楓さんに図星を突かれたのは驚いた。
「えっと……、そんなことないですよ」
「わかるのよ。友達にね……、あんまり言葉に出さないタイプのやつがいて。そいつに比べれば翼が悩んでるかどうかなんて一目瞭然よ」
そんなことないと言っているのに即座に否定された。
隣にいるポーンは心配そうに見つめてくる。
「…………ぼくには戦う理由がない。もちろん、ポーンに勝って欲しい気持ちはある。でも、誰かを殺してまで勝ちたい気持ちがあるかどうかがわからないんです」
朝、起きた時にポーンに伝えた言葉に嘘偽りはない。
だけど、この戦いに勝ち残るということは他のプレイヤーを殺すことになる。
たとえ、プレイヤーはみな死んでからこの戦いに参加してるとはいえ、再び相手を死なせるということは決して気持ちいいものではない。
「ぼくは……勝ち残りたい。ポーンを人間にしてあげたい。でも、どうしたらいいかわからない」
「そんなことで悩んでるのね」
炒飯を食べながらまるで何も問題がないようにあっけらかんとした態度で返してきた。
「別に悪く言うつもりじゃないのよ?むしろ人間味があって好感が持てるわ」
レンゲを置き、口を拭いて諭すように続けてきた。
「たくさん悩めばいいわ。ここに貴方がいるのは必然であって必ず意味はある。でもその意味がわかるのなんてまだまだ先なのかもしれないわ」
楓さんとは二、三歳しか変わらないと言うのに、まるで先生が教え子に説いてくれるような妙な説得感がある。
…………ぼくは、少しばかり急ぎ過ぎているのかもしれない。
「自分で決められないなら相談しなさい。貴方は一人じゃないでしょ?」
その言葉に自然と隣を見る。
ポーンは笑顔で両手を胸元まで上げ、グッと握ってみせた。
「……ふっ」
また笑ってしまった。
別に何かおかしくて笑ったんじゃない。ただ、安心したんだ。
気づけば胸の重さも少しだけ軽くなっていた。
……そうだ。
全部わからないままでもいいのかもしれない。
戦う理由なんて、今すぐ見つからなくてもいい。
それでも、もう少しだけ頑張ってみよう。
そう思えた。
「……さてと」
不意に楓さんが表情を変えた。
空気が切り替わる。
「そろそろ話しておきましょうか。もう一人のナイトについて」
ぼくは自然と姿勢を正した。
あの楓さんと清正さんを負かした相手。
正直、想像もつかない。
「その前に、まずはルークの話からね」
「ルーク……?」
「ええ。銃使いのフレイムよ。最初に戦ったのは、彼女らだったわ」
楓さんの目が少しだけ細くなる。
「…………強かった。機動力が高く、射程も長い。火力もある。運が悪くなければ終盤まで残っていても不思議じゃない手練れだった……」




