ライラが呼ぶ音
夕方の空。
るいは、夕陽を見上げた。
あの時の、☆のトロピカルジュースを
ふと、思い出していた。
《カチッ》
るい「んっ?!
気のせいかな……」
るいは、買い物袋を片手に
家へ向かう道を歩いていた。
いつもと同じ、住宅街の静けさ。
――なのに。
胸の奥が、
少しだけざわついていた。
理由は、分からない。
るいは、ふと立ち止まった。
そのとき。
《カチッ》
小さな音が、
すぐ近くで鳴った気がした。
周りを見回した。
誰もいない。
風も吹いていない。
時計も、見当たらない。
それでも――
確かに、聞こえた。
《カチッ》
今度は、はっきりと。
るいの背中に、
冷たいものが走った。
ゆっくりと、
振り返る。
そこに――
人影が立っていた。
黒いスーツ。
見覚えのある姿。
ヤシロだった。
るい「えっ……ヤシロさん?」
ヤシロは、
いつものように騒ぐこともなく、
静かにこちらを見つめていた。
周囲の音が、
遠のいた気がした。
車の音も、
子どもの声も、
風の気配さえも。
まるで、
この場所だけが
切り取られたみたいに。
ヤシロは、一歩近づいた。
その瞬間。
空気が、
わずかに歪んだ。
ヤシロ「――時間がない」
低く、静かな声だった。
るいの心臓が、
《ドキッ》
と、音を立てた。
ヤシロは、
るいの目をまっすぐ見て言った。
ヤシロ「ライラが……2人を呼んでいる」
《カチッ》
どこからともなく、
またあの音が響いた。
るいの足元が、
わずかに揺れた。
地面が、
ほんの少しだけ
遠ざかったような感覚。
――また、始まる。
るい「……分かりました」
迷いは、
なかった。
ヤシロは、もう消えていた。




