昨日がない日
お味噌汁の匂いがしていた。
にこ「……あれ?」
るい「夢、じゃなかったよね」
にこ「URUちゃんが作ったお味噌汁の匂いじゃないよ、お姉!」
るい「……おばあちゃんだ」
おばあちゃん「転送交信石に、戻されたようだね」
リビングの時計が
《カチッ》
っと、音を立てた。
おばあちゃん「まぁまぁ。朝ごはんでもお食べなさい」
るい「う、うん…」
鮭やたくあん。
じゃがいもと玉ねぎのお味噌汁だった。
――何故か。
《カチッ》
おばあちゃんの、朝ごはんは
久しぶりの味だった。
にこは、箸を止めた。
にこ「……ねえ、お姉」
にこ「あの星、本当に危なかったのかな?」
るい「分からない……だけど…
どうして私達、現実の世界にいるのかな?
そっちの方が、気にならない?」
《カチッ》
リビングの時計が、
もう一度、大きな音を立てたように感じた。
おばあちゃん「冷めるよ。お食べ」
と、優しく微笑んだ。
朝食を終えたあと。
にこは、スマホを手に取り、
スケジュールを見た。
にこ「あれ?」
るい「どうしたの?」
にこ「あの日がないよ、お姉」
るい「え…?」
にこ「何でだろう」
にこ「私、今日、友達と会う約束してるんだ…
駅前のショッピングモールみたい。
メッセージが、
久しぶりにみんなで遊ぼうって内容になってる」
にこは、画面を何度もスクロールした。
でも――
昨日の記録だけが、
どこにも見当たらなかった。
るいは、
ゆっくりと顔を上げた。
視線の先には、
台所で湯のみを片付けている
おばあちゃんの背中があった。
るい「……おばあちゃん」
おばあちゃんは、
手を止めなかった。
るい「昨日って――
本当に、あった日だよね?」
しばらくの沈黙。
やがて――
おばあちゃんは、
静かに振り返った。
おばあちゃん「時計はちゃんと動いているかい?」
《カチッ》
その音が、
やけに大きく響いた気がした。
おばあちゃん「記憶の時間と、
現実の時間が――
同じ速さとは限らないからね」




